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キングレコード・ツイン・ベスト・シリーズ

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2010/06/18   18:50
更新
2010/07/08   12:12
ソース
intoxicate vol.85 (2010年4月20日発行)
テキスト
text:佐藤由美

豊かな音楽遺産を二枚組のベスト盤で
──全80タイトルが発売中

ジャ ンル分けなんて時代じゃねーやと、ボーダレスを主張。差異の壁を越えられるなどとうそぶきつ、易々と情報入手できるご時勢なのに、狭小な国際認識で充足感 いっぱい。そういうのを、当世〈パラダイス鎖国〉とか言うんですかぃ? おっと、いけませんや。キーワードの乱用にランキング漬けじゃあ、行き着くところ、やっぱり鎖国状態ですぜ。

軽音楽から洋楽、ポピュラーへ。やがてジャズ以外の諸国音楽を〈ワールド〉と括るようになり、今や最低限のカタログの命脈すらおぼつかず、まさしく文化的鎖国時代に直面している感あり。フツー知らなくて当たり前、よく知りすぎてりゃオタクと、巷における音楽ファンへの差別化も極端なら、どちらもなぜか得意げ。好きなものなら入れ込んで深みにはまるのが当然だし、浅くとも幅広い自然な知の欲求があって、なぜいけないのか?

かろうじて、旧音源を絶やさず地道に紹介し続けている『キング・ツイン・ベスト・シリーズ』。一見、ぞろっぺえな命名だが(失礼!)、再発売を繰り返すことで過去の遺産を正しく活かす、もはや稀少な存在だろう。

膨大なシリーズより、まずは『フラダンス名曲集』。09年他界した、ハワイはフラの神様、ジョージ・ナオペ。歌とウクレレの師が遺した、国宝級名演をたっぷり。『沖縄民謡』は、初代ネーネーズ結成直前の面々や、昨年度レコ大企画賞に輝いた知名定男らが参加。09年この世を去った通事安京ら、八重山古典民謡の達人芸に、宮古の唄も味わえる。

洋・邦楽の境目が今より遥かゆるやかだった、60~70年代を象徴する『日本のカンツォーネ』、 『日本のシャンソン』。65年、伊東ゆかりが本場イタリアのサン・レモ音楽祭で入賞してたって、ご存じ? ほかに岸洋子、ザ・ピーナッツ、倍賞千恵子、ペ ギー葉山、梓みちよ、布施明らの歌をどうぞ。シャンソン編では、高英男や美輪明宏ら重鎮、中村晃子&細川俊之による《あまい囁き》なんて色っぽい歌も。ほれ、72年のイタリア曲。ダリダ&アラン・ドロン共演で爆発ヒットした、《パローレ・パローレ》のカヴァーですがな。

昨年、故・見砂直照の生誕100年、併せて結成60周年を盛大に祝った、東京キューバン・ボーイズの定番集『ラテン』。真に世界を股にかけ活躍した、王道ラテン・バンドの名演集だ。大橋節夫とハニー・アイランダースらによる『ハワイアン』も粒選りの名曲揃い。

サンレモ音楽祭への注目度で人気を博したのが、母国版『カンツォーネ』。日本でも愛されたミーナ、イヴァ・ザニッキ、ジリオラ・チンクエッティに、20世紀最大のスター、ドメニコ・モドゥーニュの名唱も収録。当時のヒットソングはジャンルを問わず世界を駆け巡り、数々のカヴァーを生んだ。情報過多社会より、ずっと偏見なく風通し良かった。

欧州産とアルゼンチン本国版の対比を楽しむ『タンゴ』。英国スタンリー・ブラック・オーケストラ のコンチネンタルタンゴ(これ、実は日本だけの呼称)。かたや、バッソ、ピアソラ、バレンテ楽団がアルゼンチンの必須曲を熱演。ペルーとボリビアのグループを集めた『アンデスの響き』。人気6集団が、勇壮・闊達な大地の調べを存分に繰り広げる。

で、今回初登場となる音源が、スペインきってのレーベル、【ヌエボス・メディオス】が厳選した 『フラメンコ』。CD1に、80年代以降萌芽したポップな、あるいはジャズ・フュージョン的なバリエーションを。CD2で、SP復刻や貴重ライブ音源を含 むオーセンティックな本流を結集。かつてない歌とギターの俯瞰図が、ここに完成した。当代随一トマティートやミゲル・ポベーダ、解散したケタマのデビュー作。今は亡き巨星たち、ニーニャ・デ・ロス・ペイネス、テレモート、カマロン、フェルナンダ&ベルナルダ、パケーラ、チョコラーテの歌や、土地の濃密な宴 の生々しさも満載。時代の変遷と奮闘するアーティストらの底力を、しかと体感できるはずだ。