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衝撃のPVで話題をさらったM.I.A.の新作に見る、スーサイドの共通項とは?

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2010/06/29   18:35
更新
2010/06/30   18:46
テキスト
文/久保憲司

 

ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場 の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、先行公開された“Born Free”の過激なPVで話題をさらったM.I.A.について。同曲で“Ghost Rider”サンプリングしたNYパンクの荒くれ者、スーサイドと彼女の新作とに見い出せる意外な共通項とは?

 

ついに出るM.I.A.の3作目『/\/\ /\ Y /\』、先行リリースされた“Born Free”が衝撃のPVと共に喧々諤々の話題をさらって大変なことになったので、どうなるかと思っていましたが、実にM.I.A.らしい多彩な曲が入ったいままで通りのM.I.A.らしいアルバムです。これまでよりも少しメロウかな。〈あなたが私に求めているものは、本当の私じゃないのよ〉とニューウェイヴ(ポスト・パンクかな)なメロディーで歌う“XXXO”なんか聴いていると泣けてきちゃう。“Born Free”でスーサイドの名曲“Ghost Rider”をサンプリングして、あのPV。攻撃モードで来るんだろうと思わせておいて、弱さも見せる。惚れてしまうやないか。

けっこういい人なんですよね。前に写真撮った時、生足がとっても美しかったので、それを強調しようと下からのアングルにしたんです。政治的な人だから〈こらスケベ〉っ言われるかなと恐る恐るだったんですけど、そういうこともちゃんとわかった感じでにっこりと微笑まれたような気がして、思わず惚れてしまいました(何回言うねん)。

みんなぐちゃぐちゃ言いすぎなんですよ。アートとして何ひとつ間違っていない。

しかし、フィジェット・ハウスというかヒップホップは、一体どこまでいくの?という感じです。リアーナが2作目『Girl Like Me』に収録の“SOS”でソフト・セルの“Tainted Love”をサンプリングした時は〈やるな〉と思っていましたが、そのソフト・セルのルーツとも言えるNYパンクのスーサイドをやるとは恐れ入ります。

スーサイドといえばとにかくお客をぶん殴ることで有名。その行為(アート)はノー・ニューヨークのコントーションズやジェイムス・チャンスに引き継がれたNYパンクの伝統なんですが、もう誰も引き継いでいないですね。あたりまえか。

昔スーサイドがクラッシュのツアーの前座をやった時の話だけど、アラン・ヴェガがとにかく客を殴るんで、お客さんからの苦情がきてどうしようもない。困ったクラッシュは、自分たちが先に出てスーサイドが後にやるという、ヘッドライナーが自分から前座になるといったあり得ない行為をするんですけど、それってクラッシュが良くわかっているというか、かっこいいですよね。そんな粋な計らいで前座からメイン・バンドに昇格したスーサイドなんですけど、もちろん、クラッシュが終わればほとんどの客が帰ってしまい、フロアにはスーサイドのファンしか残っていなかったんですけど、そんなことは気にしないアラン・ヴェガは、ガラガラのフロアを練り歩き、客をどつき回っていたそうです。スーサイドのファンはどつかれて〈嬉しい〉と悲鳴を上げ(パンク時代だし)、スーサイドも一応観とこうかと思っていたファンは悲鳴を上げながら逃げ惑っていたという。どんなコンサートやねんと思わず突っ込みたくなりますが、昔はこういうおバカなことが多かったです。

こんなスーサイドなんですけど、実はこの時のツアーで凄くかっこいい写真があるんです。画像検索で出てきたらいいんですが、アラン・ヴェガの手のひらとお客さんの手のひらにコップをはさんで、そのコップがいつ割れるかという緊張感のなかで歌うアラン・ヴェガ。そうなんですよね。スーサイドの歌とはこうした他者とのコミュニケーションの壊れやすい関係、緊張感を歌にしていたような気がします。“Frankie Teardrop”みたいに何を叫んでいるんだろうと思っていたら、フランキーの断末魔の叫びだった、みたいな凄い曲もありますが。でもこの曲は、フリーターの人が生活できないということを歌っていたりして、まさにいまの日本の状況を歌っているようで凄いんですよね。子供も殺して、奥さんも殺して、最後は自分が死ぬという。まさに袋小路に挟まったいまの日本の歌ですよ。聴いてみてください。それにしてもスーサイド、人とのコミュニケーションによる緊張からぶん殴るって、どんな奴なんですかね。良く取ると凄いシャイな奴なのかなと思うけど、でもどつくって。昔アラン・ヴェガがNYのグラマシー・パーク・ホテルに住んでいた頃、彼の部屋に行ったことがあるんですけど、ゴミ溜めのように汚くってびっくりしたことがあります。いま考えると、初めて見た片付けられない女の人の部屋(男ですけど)だったんですけど。いまアラン・ヴェガがどういう生活しているか知りませんが、“Bone Free”の印税たくさん入ったらいいですね。

そうそう、M.I.A.の『/\/\ /\ Y /\』もコミュニケーションのアルバムみたいですね。18か月間LAから離れなかった時のディスコネクテッド(普段生活している場所から遠く離れていることで発生する疎外感)がこの作品を生んだみたいだし、その時にM.I.A.がスーサイドのアルバムを聴いていたらおもしろいですね。

 

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