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確実に進行するハード・ミニマル復活の象徴的存在、マーセル・デットマン

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2010/06/30   17:13
更新
2010/06/30   17:13
テキスト
文/石田靖博

 

長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!

 

いきなりですが、先日出たマーセル・デットマンのアルバム『Dettman』(そのまま)は、テクノ警察の2010年のベスト・アルバム有力候補となるほど素晴らしいのである。何が素晴らしいかと言えば、このアルバムこそ、ここ1~2年の間、ひっそりと、だが確実に進行するハード・ミニマル復活の象徴的存在だからである。そして今作をリリースしたレーベル、オストグートとその母体であるクラブ=ベルグハインこそ、ハード・ミニマル復活にとってもっとも重要な存在なのである。

テクノ警察的にこの流れがキテると気付かされたのは、そのベルグハインのレジデントDJによるミックス・シリーズ〈Berghain〉の第3弾、レン・ファキ盤であった。このミックスに、UKハード・ミニマルの象徴であったルーク・スレイターがプラネタリー・アサルト・システム(以下PAS)名義で96年にリリースした大名曲“Surface Noise”が収録されていたのである(そして続けてミックスされていたのがレン・ファキによる2009年の大アンセム“BX3”。ハード・ミニマル伝承がここに!)。

それに続き、オストグートからそのPAS名義のアルバム『Temporary Suspension』(アルバムとしては8年ぶり!)がリリースされたのだ。ルーク名義での煮え切らなさから一転、この『Temporary Suspension』は、かつての敵なしハード・ミニマル路線をアップデートして大爆発させた傑作となった。

で、デットマンのアルバムに戻る。この作品の何がスゴいのかと言えば、ハード・ミニマルからクリックへ移行したシーンのなかでもっとも消失したモノ、ウネリ系ハード・ミニマル味が全開だったからだ。

ウネリ系ハード・ミニマルとは、ドラム(ビート)もベースも太すぎて渾然一体となったグルーヴが特徴的なミニマルで、代表的なアーティストは90年代前半のジェフ・ミルズにリッチー・ホウティンに田中フミヤ、そしてテクノ警察的にはいまなお復活を待ち続ける日本ミニマルの至宝、DJシャッフルマスター、そしてウネリ系の象徴的存在だったスティーヴ・ビックネル(個人的にはこの手のハード・ミニマルを勝手にビックネル系と呼んでたほど)だった。

いまなお人気の高いトライバル・ミニマルはこのウネリ系の発展系であり、この手の顔であるベン・シムズやオリバー・ホは2人ともビックネルのレーベル=コズミックからのリリースで知名度を上げたのだ。しかしミニマルがクリック的感触に移行し(そのきっかけとなったのが前述のリッチー・ホウティンによる名ミックス『DE9: Closer To The Edit』だろう)、ウネり系はその重厚さも仇となってテクノの中心ではなくなった(実はそのウネリを継承したのはサイケ・トランスだったりする)。

そんななか、〈クリックを踏まえながらウネリ感全開のミニマルを打ち出してきたデットマン、最高だっ!〉……と思っていたら、DOMMUNEではベン・シムズとサージオン(彼の登場も衝撃的だった)のDJプレイ中継が好評だわ、ハード・ミニマルの聖典ことジェフ・ミルズの大名盤『Waveform Transmission Vol.1』『Waveform Transmission Vol.3』も再発されるわ、しかも、ここ最近消息不明であったビックネルまで来日&DOMMUNEに登場するわ……これ、ハード・ミニマル、キテますよ! 震えて待て(何を?)!!

 

▼文中に登場したアーティストの作品

 

PROFILE/石田靖博

クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラブ・ミュージックのバイイングを担当。少々偉くなった現在は、ある店舗で裏番長的に暗躍中。カレー好き。小沢健二〈ひふみよ〉ツアーの冒頭のアレを観て「あ、オウテカだ」と思ってしまったテクノ馬鹿。

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