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『77 BOREDRUM-THE MOVIE-』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2010/07/06   12:17
更新
2011/01/24   09:18
ソース
intoxicate vol.86 (2010年6月20日発行)
テキスト
text:南部真里

2007年7月7日、ニューヨーク、ブルックリンの一画に、──当時の表記にならえば──V∞REDOMSのEYヨ、YOSHIMI、YO2RO(楯川陽二郎)、SEN10(千住宗臣)のほかに74人のドラマーを、つまりEYヨを基点にDNAの螺旋構造になぞらえた渦巻きの形に77人のドラマーを並べた〈77 BOADRUM〉は、同行した川口潤により『77 BOADRUM』として翌年公開され、その年の末に【commmons】から音盤が出たが、私はそのさらに2年後の同日にDVD化される本作をあらためて見直して、当時はこの全体像は誰も把握しきれなかったと思い、ナゾは深まるばかりだった。

イーストリヴァーをゆきかう遊覧船、橋を渡る二階建てバス、背景の摩天楼、あの快晴の空を横切る飛行機とひとすじの飛行機雲、暮れなずむ光の階層、鈴なりになったオーディエンス、そのすべては〈77 BOADRUM〉の舞台装置であり、77人のリズムとEYヨが放射した音響はひとつの大きなうねりになっただけでなく、時間と空間の広がりのなかで、彼らの意図を超えて、マンハッタン島を対岸に眺めるフルトン・フェリー州立公園にいまもまだ余韻をのこしている気さえする。

川口潤は直感的にそのことに気づき、〈77 BOADRUM〉を批評的に解析するのではなく、偶然そこに居合わせたかのように、自由でフラットな視点で体験するように撮影した。77台のドラムキットの間を縫い移動するカメラは、いたずらに出来事の全体を見渡そうとしないからこそ運動する音楽をいきいきと捉えている。私たちはそれを追体験することで、原始的といっていいシンプルなアイデアはシンプルであるからこそナゾめくのだと知ることになる。

本作にはDVD化に際して、インターネット・ラジオ局〈VIVA RADIO〉が出演者全員に取材した特典映像がついてくる。実際に参加した彼らの発言ほど海外でのボアダムスの影響の強さを端的に伝えるものはないだろうし、何人かが口にした「コントロールされたカオス」という言葉はひとつの有機体を目指したゼロ年代以降のボアダムスをいいあらわすかのようだ。