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遠い記憶のなかに葬り去られた音楽を蘇生するUSの4人組、ディアハンター

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2010/09/22   18:02
テキスト
文/久保憲司

 

ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ 〈現場 の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、USインディー・シーンの旗手、ディアハンターの新作『Halcyon Digest』について。遠い記憶の奥底へと葬り去られた音楽。けれど、彼らが取りに戻ると青白く蘇る――。

 

前にコラムで書いたかもしれませんが、いま世界でいちばんかっこいいバンドと言えば、間違いなくディアハンターでしょう。ディアハンターってバンド名もかっこいいなと思っていたから、ブラッドフォードに〈バンド名最高だね。どうして、そういうバンド名にしたの?〉って訊いたら〈辞めたメンバーがつけたから、なぜディアハンターって名前なのかわからないんだ。僕、このバンド名大嫌いなんだよ〉って。ずっこけましたが、そういうところも好きです。

〈いちばん最初に買ったレコード、何?〉って訊いたら、〈エコー&ザ・バニーメンの『Crocodiles』〉って言うから凄い趣味がいいなって思ったけど、子供の時にそんなレコード買うかなって思ったので、それを訊いたら〈レコードって言うからだよ。初めて買ったCDはマドンナとかじゃなかったかな、忘れちゃったよ〉だって。世代のギャップを感じつつも、このこだわりが好きです。〈でもエコバニもネオサイケ、あなたたちもネオサイケで繋がっていますね〉って訊くと〈別にエコバニ好きじゃないんだよね。変なジャケットだったから買ったんだ〉って、俺が子供の頃に命より好きだったエコバニに何を言うと思ったけど、確かにあのジャケットは変だった。なんであんな木の下でサイケな照明当ててたむろっているのって思うよ。ラリキン・ラヴの元ネタだと思うけど。とにかく安かったから買ったんでしょうね。中古で。300円くらいだったのかな。

でも、ブラッドフォードのソロ名義、アトラス・サウンドは日本のカラオケ・メーカーのマイクについていた名前を使っているので、そのセンスはエコーっていう日本のリズム・マシーンをバンド名に使ったエコバニと同じだから、本当はエコバニが好きなんじゃないの?って、思ってしまう。ちなみにいま〈アトラス・サウンド〉って調べたら、カラオケっていうよりマイク・スタンドの会社でした(たぶん)。アトラス・サウンドは凄いチープな機材を使っているのかと想像してしまったよ。でもあのいい音を聴くとちゃんと普通にコンピューターとか使ってループさせてるのだと思う。でも、本当に趣味いいよな。ああいうループ・ミュージックは80年代にあったような気もするし、なかったような気もする。その頃はBOSSの1秒だけサンプリングできるエフェクターが出て、みんながそれを使って適当なことをやっていたような気がする。でもそういうのがレコードになっていたのか、どうなのかわからない。でもライヴではそういうことをする人がたくさんいたような気がする。もちろんブラッドフォードがそんな頃のことを知っていると思えないけど、ブラッドフォードが作る音楽にはそういう部分がある。過去にそういう音楽が実在していたような気にさせてしまうような不思議な感触、フィリップ・K・デイックの「ユービック」のように、過去の遺物が亡霊のように蘇ってくるような何と言えない感覚がブラッドフォードの音楽にはあるような気がする。

ディアハンターの1枚目『Turn It Faggot』はまさに、ブラッドフォードが敬愛する3バンド、ブリーダーズ、B-52's、ステレオラブが本当にいっしょにやっているかのようである。もちろんPILとかカンな感じも入っている。こんなバンドがいっしょにやっても上手くいきそうにないのに、見事に交差させてしまっているのである。フレーミング・リップスの新作『Embryonic』のポスト・パンクな感じを聴くと、この時期のディアハンターに影響されたんじゃないかと思ってしまうくらい素晴らしいポスト・パンクな音だ。そして、前作『Microcastle』にはアメリカン・ポップスの要素が入ってきているそうだ。そしてこの新作『Halcyon Digest』にはどういう要素が入ってきているのだろう? ブラッドフォードのインタヴューを読んでいると〈ルー・リード〉なんて言葉が出てきていて、確かにヴェルヴェッツみたいな曲もある。僕からすると〈順番が違うだろう〉と思わず突っ込みたくなるけど、しかし、それがディアハンターなのだ。記憶のなかのような音楽。時代もごちゃごちゃになり、ほとんどの人からは忘れ去られている忘れ物のような音楽。しかし、彼らがそれを取りに戻ってくると、蘇っている。でも、そんなに新しくはない。なんかぼーっと青白く光っている感じ。不思議な不思議なバンド、そして、いま世界一かっこいいバンドなのだ。

 

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