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菊地成孔00年代未完全集 「闘争のエチカ」(上下巻)

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2010/10/13   14:50
更新
2010/10/13   18:37
ソース
intoxicate vol.87 (2010年8月20日発行)
テキスト
text:俵我孫子

───音楽140トラック/映像150分/スチール100枚/テキスト5万文字!?

菊地成孔の音楽活動の10年間に、われわれが聴きつづけていたもの、それはポリリズムだった。菊地成孔の文筆活動の10年間に、われわれが読み続けていたもの、それは不安だった。そしておそらく今後10年間、われわれが菊地成孔の音楽が発生させしつづけるもの、それはポリリズムであり、ずれであり、ゆらぎである、だろう。

2001年のデートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデンにあるもの、そして2010年のぺぺ・トルメント・アスカラールにあるものは、ゆらぎであり、ポリリズムであり、西欧を偽装するアフリカ、アフリカを偽装するアメリカ──ジャズなのかもしれない。ジャズのリズムを時間のモジュレーションというマナーで進化させるという野望は、おそらく彼のポリリズムをさらに形式的に発展させようというものだろうか。翻ってサウンドにおける進化、ハーモニー、インストゥルメンテーション、モードといった要素を飛躍的に更新するような理論的パースペクティブはあるのだろうか? バークリー理論、リディアンクロマチック、さらにラングに至る彼の理論的関心は、さらにどのような理論的な跳躍をもたらすのだろうか?

かつてポリフォニーを極端に推し進めた結果としてクラスターを獲得したクセナキスのようにポリリズムを極端に推し進めたものとしてノイズを先取りすることなく、モートン・フェルドマンのタペストリーのようなスタティックな音の運びにとどまり、そこにポリリズムを見出し、ゆらぎ、身体をゆだねる。グリッドの交点に音を配置しているかのような理論的偽装こそが、ポリリズムの快楽だということ、それが菊地の音楽の官能だと。

2005/6/9  koolhaus of jazz Ⅱ   ©LIQUIDROOM

菊地成孔という過去10年の現象は、どのような理論的な関心の持続と、音楽の更新をもたらすのだろう? しかし、いまをもってきっと誰も菊地成孔を知らないが、この全集のパースペクティブによって、菊地の音楽の闘争と、エチカを知ることにはなるのだろう。

01年に発表されたDCPRGのファーストアルバム『アイアンマウンテン報告』から、最新録音である《退行(NHK土曜ドラマ「チェイス/国税査察官」主題歌)》まで、鬼才、菊地成孔が、00年代という混迷の10年間を通して繰り広げて来た、極端に苛烈で、極端に拡散的で、極端に官能的で、そして極端にエレガントな闘争の全記録。

00年代をリードし、10年代に入るも更に旺盛な活動を続ける音楽家/文筆家、菊地成孔の、音楽家として初のベストワークス。メディアにUSBメモリースティックを使用し、メーカーやレーベルを越えて集められた既発CD、出版社や媒体を超えて集められた既発スチールに加え、未発表音源/ライヴ映像/スチール/講義のテキストも併せた膨大なタイトル群を、本人の手によって4GB×2セット(上巻ビギナー向け/下巻マニア向け)に厳選した全集的な作品。本作用に書き下ろす、総括的な解説テキストも収録。

いちアーティストの10年間に渡る活動をメモリースティックに入ったデータ(音声/動画/静止画/セルフライナーノート)として製品化する試みは世界初。これ1本で、過去、いち個人には不可能と言われた、菊地成孔の多岐に渡る音楽活動(DCPRG、スパンク・ハッピー、クインテット・ライヴ・ダブ、ぺぺ・トルメント・アスカラール、ダブセクステット、ソロ、プロデュース作、映画&テレビ音楽)を網羅的に、一挙に鑑賞する事が可能に。上巻ビギナー向けは既発音源のセレクションを中心に、下巻マニア向けはレア音源/映像を中心に編まれ、コンテンツの重複無く、どちらも独立した作品として製作されている。