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SLIPKNOT

連載
NEW OPUSコラム
公開
2010/10/14   16:12
更新
2010/10/14   16:13
ソース
bounce 325号 (2010年9月25日発行)
テキスト
文/宮原亜矢

 

〈完全体〉での最後のライヴ映像——亡きポール・グレイが遺した勇姿をその目に焼き付けよう

 

 

99年にリリースされたスリップノットのセルフ・タイトル作『Slipknot』は、2000年代のミュージック・シーンを語るうえで不可欠の存在になる大きな足掛かりを作ったこと、そして9人のメンバーが揃って初のアルバムということで、みずからファースト・アルバムと言って憚らないことでも有名だ。この作品が世間に与えたインパクトは、その凶暴性を露わにしたマスク姿のみならず、新たなエクストリーム・ミュージックを提示するほど大きなものだった。

そしてこのたび、『Slipknot』の発表から10周年を迎えた昨年に、そのクライマックスを華々しく飾る初のヘッドライナーで出演した〈Download Festival〉の模様と、最新作『All Hope Is Gone』に伴って行われたツアーのドキュメンタリーから成る2枚組DVD「(Sic)nesses」が登場した。これは本来なら祝祭ムード満載のはずだが、今年5月24日に彼らを襲った悲しい出来事——オリジナル・メンバーでありメイン・ソングライターのポール・グレイ(ベース)が38歳の若さで急逝したことで、世界中のマゴッツ(=ファン)が悲しみからまだ脱せられずにいるなか、ポールに捧げられた追悼作となったのだ。そんな趣は、彼らの映像作品では恒例の隠し映像にも貫かれている。

「世界中で語ってきたことだが、この1年半はバンドにとって本当に最高の時だった」というコリィ・テイラー(ヴォーカル)のMCは、喪失感に打ちひしがれた2010年のいま聞くとこれほど悲しいものはない。しかし「彼の持ち得る可能性すべてを捧げながらスリップノットとして生き、スリップノットとして呼吸してきた」——残された8人が本作のブックレットのなかでポールへ寄せたコメントのなかにある〈スリップノットとして生きる〉という言葉に惹きつけられた。コンセプチュアルな存在のままステージに立ち、彼らを愛するマゴッツを10年強もの間狂乱させ続けた日々に伴う重責と壮絶なパフォーマンスによる肉体的な負担の量は想像を絶するが、それを闘い抜いてこられたのも相愛する9人の弛まぬ絆があったからこそなのだ。

 

▼関連盤を紹介。

スリップノットの2009年作『All Hope Is Gone』(Roadrunner)