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ヴィーナス・マスターピース・コレクション

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2010/11/15   17:38
更新
2010/11/15   17:53
ソース
intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)
テキスト
text:馬場雅之(タワーレコード本社)

日本のジャズ・ファンでヴィーナス・レコードの名を知らないという人は少ないだろう。

このレーベルは92年にプロデューサーの原哲夫氏によって立ち上げられた日本のジャズ・レーベルであるが、日本人がもっとも聴きたいスタンダード中心の選曲で、それを海外のミュージシャンの演奏による海外での最新録音で聴かせるというコンセプトは長年に渡り支持されている同レーベルの人気の秘密だ。また月に1作~2作ペースでのリリースを続けており、スイングジャーナル誌では毎号高い評価で紹介されていたこともあって、発売されるたびに購入する固定ファン層もいる。

あと忘れてはならないのがジャケットを印象付ける独特のアートワーク。アーティスト自身が登場しているものもあるが、どちらかといえば、美女がファッショナブルないでたちで、もしくは大胆なヌードで写っているセンス抜群のデザインは日本の他のジャズ・レーベルも真似をしてしまうほど、インパクトがあるということだ。日本発のジャズ・レーベルとしては間違いなくトップの座にあるレーベルのひとつといえよう。

そのヴィーナス・レコードが今回、マスターピース・コレクションと題して、その人気タイトルを9月から12月まで毎月50タイトルずつ、計200タイトルを豪華な見開き厚紙ジャケット仕様で一枚¥1500(税込)にてリリースするというのだから、この傑作群を一気に聴けるという、またとない機会だといえそうだ。昨年にも一度¥1500盤化して発売したこともあり、それが大好評で、今回はその時のタイトルも含まれてはいるが、初廉価化してのタイトルもあり、さらにヴィーナス・ジャズの再発見にも拍車がかかることだろう。

さて、こういったレーベルには看板アーティストがいるもので、ヴィーナスの場合、間違いなくピアニストのエディ・ヒギンズの名をあげるべきだろう。エディ・ヒギンズは惜しくも昨年亡くなってしまったが、リリースされた諸リーダー作はヴィーナス・レコードのエッセンシャルともいうべきジャズ・スタンダードの名演を収録したものばかりで、まずヴィーナスを知るならヒギンズを聴くのがいい。その軽やかなスイング感と気品にあふれたバラッド演奏など日本人にとっては思わず聴きたくなるジャズ、というべきもの。元々50年代から活躍してきたピアニストであったが、90年代に入り、このヴィーナスから新作を出し始めたことで一躍人気ピアニストの仲間入りを果たした。この他ピアニストではビル・チャーラップ、もしくは彼が率いるニューヨーク・トリオやもともと耽美派で知られるスティーヴ・キューンによるスタンダード・アルバムもおすすめだ。サックス・プレイヤーで人気が高いのはエリック・アレキサンダー。中でもバラッド演奏の極みを聴かせる『ジェントル・バラッズ』シリーズは情緒豊かなエリックのフレーズに思わず胸が熱くなる。またレーベル初期のファラオ・サンダースや故バルネ・ウィランなどの大物サックス奏者のアルバムも魅力。さらに注目度の高い次世代アーティストの新作も次々とリリースしており、ピアニストのダン・ニマー、イタリアの若手天才サックス奏者フランチェスコ・カフィーソ、美人シンガーでベーシストのニッキ・パロットなど、日本ではあまり知られていない才能をどんどん引き込み、ニュー・アルバムとともに紹介した功績は大きい。

ヴィーナス・レコードは「聴くぞ!」と思って聴いても、ただなんとなく聴いていても、ジャズの持つオトナでロマンティックな魅力が十分に伝わる本格ジャズ・レーベルである。この感覚は一度知ってしまうと誰もが病みつき。どうかヴィーナス依存症にはご注意を。

ヴィーナス・マスターピース・コレクション

大好評のうちに完売となってしまったヴィーナス・レコードの1,500円復刻盤シリーズですが、日本のジャズ・ファンの熱い要望に応え、更に豪華な見開き厚紙ジャケット仕様で、2010年9月~12月に亘り、毎月50タイトルずつ合計200タイトルの名盤が、今回も1,500円で復刻!
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