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『Afrocubism』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2010/11/18   12:12
更新
2010/11/18   14:07
ソース
intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)
テキスト
text:篠原裕治(新宿店)

13年越しで結実した本来の『ブエナ・ビスタ』

ライ・クーダーがプロデュースし、のちにヴィム・ヴェンダース監督で映画化されたこともあり世界的な大ヒットとなったアルバム『ブエナ・しビスタ・ソシアル・クラブ』。キューバの古老たちによるノスタルジックなサウンドが多くの人々の心を打ち、世界中で一大キューバ音楽ブームが巻き起こったわけだが、実はあのアルバムのコンセプトは、もともとまったく違うものだった。最初の計画は、アフリカのミュージシャンをキューバに呼び寄せ、キューバの音楽家と共演させるというものだった。ところが、アフリカ人たちがパスポートを紛失してしまい、キューバ行きが不可能に。そこで急遽路線変更して、いわば苦し紛れに立案されたのが、キューバ音楽の黄金時代を築いた老ミュージシャンたちを起用するというコンセプト。それが結果的に驚異的なヒットとなったのだから、人生なにが起きるかわからない。

その『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の発表から13年、当初のコンセプトがついに実現されることになった。それがこの『アフロクビズム』だ。キューバからは、『ブエナ・ビスタ』にも参加していたエリアーデス・オチョーア。アフリカ勢は、13年前に参加する予定だったジェリマディ・トゥンカラ(ギター)、バセク・クヤーテ(ンゴーニ)のほか、コラのトゥマニ・ジャバテやヴェテラン歌手のカッセ・マディ・ジャバテ、バラフォンのラサナ・ジャバテという、〈西アフリカ・オール・スターズ〉とでもいうべき最強の布陣。13年前だったらこのラインナップは不可能だっただろうから、結果論ではあるが、実現したのが2010年でよかったという気さえしてしまう。

西アフリカのポピュラー音楽はキューバ音楽の影響を大きく受けて発展してきたから、両者の相性の良さは言うまでもない。ちょっと聞くとリラックスしたサウンドだが、深く聞きこむほどに新しい発見がありそうな、刺激的な融合音楽が誕生した。