〈ロック以降〉と〈ポスト・ロック〉を行き来するようなハイスイノナサ
〈ポスト・ロック〉と言ってしまうと──ときにはどこがポストなの? なんてことも──何となく思わせぶりな音楽を想像し、少々うんざりしてしまうきらいもあるが、そんなあいまいな現象、あいまいなカテゴリーの中に括られつつも、わがままな個性を放ち独自にシーンを漂うアーティストに光を当てる信頼のレーベル【残響レコード】。言わずもがな、言葉以上に音と行動力で明言するte’のギタリスト=河野章宏が代表を務めるレーベルであるが、彼らが日本のお茶の間にまで〈ポスト・ロック〉というキーワードを浸透させた影響は計り知れないものがある。そんな【残響レコード】より、このたび、若き男女5人組、ハイスイノナサのセカンド・ミニ・アルバムがリリースされる。前作のミニ・アルバム『街について』からちょうど1年ぶりのことだ。
ハイスイノナサ。その字面と語感のみを大切にしたような不思議なバンド名、そして、相対性理論や神聖かまってちゃんらとの共演から、刹那的な異形ポップを想像する向きもあるかも知れないが、そのサウンドはじつにシンプルに〈ロック以降〉を描き出す。随所に現れる変拍子ドラムも、フュージョン/ファンクの影響を感じさせるうねるようなベースも、チリチリとしたグリッチ音とからみ合いすんなりと耳の中を転がり回る。そう、それは〈ポスト・ロック第一世代〉のマイス・パレードやヒムなんかを彷彿とさせたりするものだ。主張し過ぎることなく、ただ丹念に自分たちが新しいと感じる音を拾い集め/つなぎ合わせる。
そんないくつものパーツが重なり、ずれ、変化し、様々な方法で組み合わされるアンサンブルは、まさにハイスイノナサという名のごとく感覚的な並びの妙を持続し、エレクトロニカ然とした鍵盤のメロディーとの合流をもって空間を優しく包み込む。また、クラシカルな調べ、シャープなカッティング、ミニマルなリフを連続するギターの豊かな表情も聴きどころだが、特筆はやはり鎌野愛によるふんわりとふり積もるようなボーカルだろう。オペラの素養もある、という歌声は、アンビエントと称されることも少なくないようだが、(そんな勿体ぶったものではなく)極めて開かれたポップ性をもち、音と寄り添いながらも言葉を大切にしたものだ。
「均質化しつつある文化を意識した上での新しい価値の創造」──〈ポスト・ロック〉の足枷からの解放も考えさせられる力強いコンセプトのもと、鮮やかに描かれる6つのストーリー。それはつむじ風のような疾走と、そよ風のような柔らかさに満ちた6つの日常である。形骸だけがただ息をしている記号のような毎日。都市にぽっかり開いた無数の風穴を埋めるには、こんな誠実な音楽がよく効きそうだ。
ハイスイノナサ。言葉の意味は良く分からないが、とにかく、たおやかでじつに潔い。
『「想像と都市の子供」release tour』
12/12(日)高崎club FLEEZ
2011/1/8(土)名古屋CLUB ROCK'N'ROLL
1/9(日)大阪LIVE SQUARE 2nd LINE
1/22((土)仙台Hook
2/5(土)渋谷O-nest
http://www.haisuinonasa.com/