3年振りの新作は、「ゆったりと風呂に浸かるような感じ」、だそうだ。
ロバート・ワイアットの3年振りの新作は、サックス奏者のギルアルド・アツモンとヴァイオリン奏者のロス・スティーヴンとのコラボレート・アルバム。ギルアルドはワイアットの近作『クックーランド』(最近、『ロック・ボトム』との2枚組ヴァージョンがリリースされた)『コミック・オペラ』と続けて参加していて、ワイアットもギルアドのアルバムに参加するなど両者の親交は厚い。いっぽう、ギルアドはロスのアルバムに参加してから交流を深め、二人で新たなストリングス・ユニットを構想していた時に、ゲストのヴォーカリストとして二人が真っ先に頭に浮かべたのがワイアットだったとか。そして、3人のミュージシャンによる素晴らしいトライアングルが生まれた。
アルバムのプロデュースを手掛けたのはギルアドで、ジャズの即興性や現代音楽的な複雑なコンポジションを織り込みつつ、突然ラップが挟み込まれたり、エレクトロニクスを大胆に使ったりと、曲ごとに多彩なアプローチを展開。例えばアルバム・タイトル曲ではワイアットの曲を原型がわからないほど再構築するなど、実験的でありながら遊び心やユーモアを忘れないサウンドは、まさにカンタベリー的肌触りだ。そして、ギルアドが吹く人懐っこいホーンの音色や、ロスの艶やかなストリングスと慎ましく〈共演〉しているのがワイアットの歌声。今回、ワイアットはヴォーカルのみに専念していて、ジャズ・スタンダードや持ち歌を、時には哀愁を帯びた口笛を交えながら歌う。そのささやかな歌声は、まさに天からのギフト。まるでキャンドルの明かりのように、曲のすみずみまで温かな輝きで満たしていく。
レコーディングの時、ストリングスに合わせて歌うことについて、ワイアットは「ゆったりと風呂に浸かるような感じ」なんて風に表現したそうだが、リスナーもまた首まで浸かって、たっぷりと長風呂できそうなアルバムだ。うっとりするほどメロウで、機知に富み、ただひたすら心地良い時間が過ぎていく。