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Tower To The People 2010──ローランド・カーク

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/01/11   12:20
更新
2011/01/11   12:33
ソース
intoxicate vol.89 (2010年12月20日発行)
テキスト
text:鈴木智彦(タワーレコード本社)

アトランティック時代の名作6タイトルをSHM-CDで復刻

グロテスク・ジャズなどという蔑称が冠される事は流石になくなったとは言え、多くの作品が国内盤廃盤(或いは未発売)のまま放置されて来た状況を鑑みれば、未だにこの国におけるローランド・カークの音楽家としてのポジションは異端者のままであるのかも知れない。もうそろそろ彼を異端者の楔から解放し、この世界(この宇宙)に満ち満ちている音声、生活音、人工音、自然音などが奏でる一大オーケストレーションと対話し、自らもそのオーケストラの一員として溶け込んで行き、壮大な抒情詩のような作品を遺した偉大な音楽家として再評価がされてもいい頃だ。

視覚に頼りがちな我々が、それ故にうすらぼんやりとしか世界の物事の本質を感知し得ていないのに対し、研ぎ澄まされた鋭敏な聴覚による世界の感知を行っていた(と思える)彼の音楽の方が、よりリアルに、鋭く、この世界の本質を捉えていたようにも思える。世界に満ち満ちた様々な音響から、驚きや歓び、苦しみや哀しみや怒りまでも感知し、それを音楽を通して表現してみせたような彼の音楽は、どこまでも人間臭く、時に人間世界のグロテスクな様相や猥雑な空気感までも写し取ってしまう性質のものであった。グロテスクなのは彼の音楽ではなく、諍いや差別などを飽く事なく繰り返す人間存在そのものである事を、彼の音楽を通して感じ取る事も可能だろう。

エリントンからコルトレーンの音楽、ブルース、ジャズ、ソウルといったアメリカ黒人音楽全般だけでなく、自らのルーツであるアフリカ音楽や世界の同居人である様々な民族の音楽のリズムや旋律までも取り込んでみせ、音楽的にも最も実りが大きかった彼のアトランティック時代(10年に渡り在籍)の隠れた名作の数々6タイトルをこの度高音質のSHM-CD仕様で(タワーレコード独自で)国内盤発売させて頂いた。『溢れ出る涙』や『ヴォランティアード・スレイヴェリー』だけでは断片的にしか感知出来なかった彼の雄大な音楽抒情詩を、今度こそトータルで味わってもらいたい!