ライヒの密着ドキュメンタリーがDVD化
3年前のライヒの来日公演のこと。確か《18人の音楽家のための音楽》のゲネプロの時だったと記憶するが、突然舞台上でフランス人2人がハイデフビデオを回し始めた。「誰、この人たち?」「フランスのテレビの取材で、ずっとライヒにくっついて撮影しているらしい」「へー、そうなんだ」と舞台の裏方さんと話をしたが、こっちはこっちで密着レポートとインタヴューの準備で忙しかったので、それ以上気に留めていなかった。その時の2人、すなわちÉric DarmonとFranck Malletが約1年間に及ぶ密着取材をまとめたドキュメンタリーが、本作『Phase to Face』である。
一番の見どころは、ライヒが「70歳になるまでロックを書く楽しみをとっておいたよ」という、ロックバンドのための《2×5》世界初演とそのリハの模様を撮った部分だろう。バング・オン・ア・キャンの面々と共に、ニューヨークのボロいスタジオ(失礼!)で 《2×5》を作っていくライヒは、とても撮影時73歳とは思えない。あれだけの経歴を誇る人なのに、ちっとも巨匠ぶらず、自分の年齢の半分にも達していない若造たちと〈バンド野郎〉の立ち位置を楽しむライヒの余裕。正直《2×5》は昨年発売されたCD盤より面白く、畢竟、それはこの曲が演奏者による肉体化を本質的に要求し、その部分は視覚的にしか表現しようがないということなのだろう(つまりロックだっていうこと)。
この他、おなじみのお約束アンコール曲《クラッピング・ミュージック》をはじめ、これまで映像化されていなかったライヒ作品の演奏風景も多数収録されている(いずれも断片なのが惜しい!)ので、ライヒ入門者も熱心なファンもそれなりに楽しめるはず。DVD特典として、東京で収録した18分のインタヴュー素材が収録されるとのことだ。自己宣伝めいて恐縮だが、筆者の長大な取材レポート(『レコード芸術』2008年7月号)と比較して見るのも一興かもしれない。