ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!
僕は阿智本悟。東京は北区で退屈なサラリーマン生活を送る25歳さ。もうすぐ北国から上京して4年目になろうとしている。僕のイカしたロック嗜好は地元じゃまったく理解されなかったけど、それはここ東京でも同じ。冴えない日常にウンザリするよ。でもさ、僕は何も悪くない。たまたま趣味の合う人と出会えていないだけで、悪いのは周りの大人たちだよ……と、心のなかで嘆きながら、結局一度もまともな会話をしないまま今日も退社の時間だ。さてと、仕方がないからあの店に向かうか。白髪オールバックにレイバンのサングラスおやじ、ボンゾさんのいるロック酒場〈居酒屋れいら〉だ。だってあそこに寄らないと、誰ともしゃべらずに一日が終わっちゃうからね。
阿智本「ちゃ~っす。いつもので!」
ボンゾ「いつものだと? ウチにゃそんなメニューはねえよ。欲しいもんがあるならちゃんと注文しやがれ、このバカ阿智本! もっとも、お前は〈いつもの〉間抜けヅラだがな。ガッハハハハ!」
悪態をつきながらも、グラスに焼酎を注ぎ、梅シロップを垂らしてくれるボンゾさん。コンビーフにマヨネーズが乗ったつまみもすぐに出てきた。わかっているならいちいち余計なこと言うなっつうの!
阿智本「ところで、今日はやけにソリッドなガレージ・ロックが流れてるね! 〈れいら〉にしては珍しくカッコイイじゃん!」
いつもはかったるい年寄りロックをフンフン♪言いながら聴いているボンゾさんだけど、今日はちょっと雰囲気が違う。
ボンゾ「曖昧なカテゴリー分けにはいまいち釈然としないものを感じているんだが……これは13thフロア・エレヴェーターズっちゅうバンドでな、お前の言う通り〈ガレージ・ロック〉の始祖のひとつであると同時に、現在にまでその系譜を連ねるサイケデリック・ロックのルーツ的存在でもある偉大なバンドよ。今回、66年のデビュー作でその名も直球な『The Psychedelic Sounds Of The 13th Floor Elevators』に、未発表テイクなんかを加えた2枚組のデラックス・エディションがリリースされたんだ。こうしてクラクラするほどサイケな音に包まれていると、絞り染めのシャツを着ていた若き日々を思い出しちまうな~」
〈サイケを聴いて思い出す青春時代なんてロクなもんじゃないね!〉というツッコミはひとまず呑み込んで、ジャキジャキとしたギターとヌメヌメとした不思議な音に耳を傾ける。
阿智本「でも僕にはこのドロドロした感じは余計だな。ガレージ・ロックならタイトなビートと鋭いギター・カッティングだけで勝負してほしいね。特にこの後ろでトゥクトゥクトゥクトゥク鳴ってるキモイ音は何? 意味不明で耳障りだよ!」
ボンゾ「何だとクソッタレ! それじゃあサイケじゃなくなっちまうじゃねえか! このトゥクトゥクはエレクトリック・ジャグっつう、壷みたいな得体の知れない楽器よ!」
阿智本「得体の知れない壷? ヘンなの、コミック・バンドみたいだね!」
ボンゾ「ブン殴るぞ! 当時はドラッグの追体験を表現するために、試行錯誤と思いつきで新しいロックを作っていたんだ。その結果がサイケでありエレクトリック・ジャグなんだよ! ゆとり世代のお前には、そういう努力と発明の尊さがわからないかもしれないがな!」
阿智本「はいはい、すみませんでした(ポチリ)」
ボンゾ「てめえ、何しやがる! 勝手にプレイヤーの電源をオフにすんじゃねえ!」
すると、いきなりボンゾさんが掴みかかってきた!
阿智本「何すんだよ! こんな古臭いサイケを聴くならMGMTを聴いたほうがよっぽどいいじゃないか!」
そんなこんなでボンゾさんと揉み合っていると、プレイヤーをオフにしたはずなのにふたたび〈トゥクトゥクトゥクトゥク……〉という音が聴こえはじめた! 怖ッ!
ボンゾ「おいおい、13は不吉な数だからな、まさかお前の悪口の呪いじゃ……」
2人で顔を見合わせ、店の隅に目をやると……。ああっ! ずいぶんご無沙汰だった内山田ナントカさんが得体の知れない壷みたいな楽器を吹いてる!
ボンゾ「うわっ、再発先生!? 久々に来たくせにビックリさせないでくださいよ!」
すると内山田ナントカさんはなぜか照れ臭そうに壷をしまった。もう! 何なんだよ、この店は!!