NEWS & COLUMN ニュース/記事

映画『ソウル・パワー』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/04/05   22:06
更新
2011/04/05   22:12
ソース
intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)
テキスト
text:高見一樹

ザイール'74年、伝説の音楽祭

お蔵入りというのは、いろんな制作の現場に落ちているいやな事件だが、お蔵に入れてよかったということも、稀にはある。いや、もしかしたらない。スポンサー/制作サイドの政治的痴情のもつれ、経済的破綻に巻き込まれたアーティストのたぐい稀な結果や、アーティスト自身の気まぐれによって塩漬けにされた記録は、風聞を生み、伝説となってきた。

74年に撮影され、昨年日本でも公開になったドキュメンタリー『SOUL POWER』は、ザイールで計画されたアリVSフォアマン戦のプレイヴェントとして企画された音楽祭を収録したものだ。この記録がお蔵入りになったのは、試合が延期されたからだが、イヴェントが予定どおり行われたのは、延期の決定がまさに、直前だったからだ。よってコンサートは、音楽固有の価値を獲得したが、一ヶ月後、奇跡といわれたアリのチャンピオン奪還によって、忘却されてしまった。

しかし、記録は残り、『黒いウッドストック』と呼ばれたこの奇跡のコンサートの模様すべてが、収録され、マルチテープに録音されていたのが、発見された。74年当時の、極上のJB、ファニア・オールスターズ、スピナーズ、マヌ・ディバンゴ、数々のコンゴのミュージシャンのアーティストとサウンドが、アナログ特有の粘っこい響きで奇跡の復活を遂げた。

この映画が保存し、こうしてふたたび我々の目前で映し出すのは、ただのブラックではない。驚愕すべき生命力に満ちた、ただならぬ磁性を備えた黒いアナログテープのような、ブラックだ。ブラックネスを、いま、日本がどんな風に理解できるのかわからない。しかし、ここに保存されたブラックネスは、アフリカ回帰のノスタルジーを恐ろしいほど無意識下に抑圧してきた人種の歓喜であり、それは、誰にでも感染するのではないだろうか。