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映画『ミスター・ノーバディ』

カテゴリ
o-cha-no-ma CINEMA
公開
2011/04/28   15:17
更新
2011/04/28   16:41
ソース
intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)
テキスト
text:村尾泰郎

 

人生は選択の連続。壮大なスケールで描かれる〈もしも〉の世界

『ハムレット』の有名なセリフ、「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」じゃないけれど、人生は選択の連続だ。『ハムレット』みたいに人生最大の選択もあれば、ランチのメニューを選ぶような日常の選択もある。でも、その小さな選択が実は人生の分かれ目なのかもしれなくて……。ベルギー映画の鬼才、ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の最新作『ミスター・ノーバディ』は、そうした人生の選択、そして運命をテーマにした物語だ。

不老不死になった未来社会で、唯一臨終を迎える人間として注目を浴びている118歳の老人、ニモ。今では自分の過去をまったく覚えていないニモは、新聞記者に向かってうろ覚えの自分の人生を語っていく。その人生は選択の連続だった。最初にして最大の選択は9歳の頃、大好きな両親が離婚することになり、駅のホームで母親と列車に乗るか、父親と街に残るかを選ばされる(なんて残酷な!)。映画では母親を選んだニモ、父親を選んだニモ、その両方の物語が並行して描かれ、さらにそれぞれの世界のニモが選んだ(かもしれない)3人の女性達とのラヴストーリーも描かれて……というふうに、映画が進むにつれてエピソードがどんどん枝分かれしていく。

ある世界でニモは離ればなれになった恋人アンナを探してさすらい、別の世界では鬱病に苦しむエリースを見守り、そうかと思えばジーンと愛のない生活を送る。さらに浮浪者のニモ、高級車を乗り回すニモ、火星旅行するニモ、あらゆるエピソードがモザイクのように散りばめられるなか、様々な映像のギミックや〈バタフライ効果〉や〈膨張宇宙〉といった物理用語を使って自由自在に物語を紡ぎ出す監督の語り口は、まるでシンフォニーの指揮者のごとく繊細にして大胆だ。歴史に〈もしも〉は存在しないといわれるけれど、その〈もしも〉に心奪われるのが人間。万華鏡のように広がるニモの物語を通じて、選択と運命の間で揺れ動く人生の不思議、そして何より、自分が選んだ人生を懸命に生きることの尊さが伝わってくる。

 

映画『ミスター・ノーバディ』

監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
音楽:ピエール・ヴァン・ドルマル
出演:ジャレッド・レト/サラ・ポーリー/ダイアン・クルーガー/リン・ダン・ファン/リス・エヴァンス/ナターシャ・リトル/トビー・レグボ/ジュノー・テンプル他
配給:アステア (2009年 フランス・ドイツ・カナダ・ベルギー 137分)

4月30日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷他、全国順次ロードショー!

http://www.astaire.co.jp/mr.nobody/

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