フェルナンド・カブサッキの来日によせて
2月11日に来日したアルゼンチン地下音楽シーンの大立者、元レイノルズのアンラ・コーティスは東京から九州までの各地をツアーしながら一月ちかく滞在し、帰国した直後震災のニュースを知った。アンラから3月11日にもらったメールはツアーで知り合ったひとたちを気づかうもので、私はあの震災がこの国を遠く離れた場所にも小さくないインパクトを与えたのを実感したが、音楽ファンにそれが目に見える形であらわになったのは、震災を境に海外ミュージシャンの来日公演があいついで中止されるのを、わけのわからない無力感にさいなまれながら何か人事のように呆然と眺めていたときで、誰もが音楽を聴く余裕さえなかった。4月に入っても先の見えない状況に変わりはない。それでも日常は日常に戻りつつある。いや、あの日を境に非日常が日常になったといってもいいのかもしれない。しかし私の日常も非日常も音楽とともにある。
アンラが母国に戻った一月後、彼の家からそう遠くないブエノスアイレスの一角から、フェルナンド・カブサッキが4年ぶりに来日するのをことさら因縁めかす必要もなかろうが、それでも私は符牒を感じる。カブサッキはいわずと知れた、一世を風靡した「アルゼンチン音響派」の重鎮であるが、彼の音楽の根幹は音響的なスタジオワークに軸足を置いた巧緻な音楽性にあるのではなく、私は既存の音楽ジャンルとは無縁に主題はもとより、ギターを遊ばせる自由さにあると思う。『Houses1』から『The Flower & The Radio』にいたるアルバムで彼は母国のシーンの手練れたちはもちろん、今回のツアーでも共演予定の山本精一や勝井祐二、鬼怒無月らとセッションを行ったが、いま聴き直すとそこには音楽の時間の中でアイデアを展開し、空間にメロディを浮遊させる、エモーションという言葉にとどまらない、共生としての音楽、固定した中心をもたない綻びに似たものがある。彼の音楽は音楽以上の目的をもたない。音楽は癒しや勇気のためだけのものではない、ということを勝手に読み取ることのできる自由さ。私はカブサッキの来日を知って、そのことを最初に思った。
『Fernando Kabusacki Japan Tour 2011』
4/20(水) 神奈川県横浜 試聴室その2 出演:フェルナンド・カブサッキ/大島輝之/ナスノミツル/千住宗臣/山本達久
4/21(木)東京都八丁堀 七針 出演:フェルナンド・カブサッキ/ピカチュウ
4/23(土)兵庫県神戸 旧グッゲンハイム邸 出演:フェルナンド・カブサッキ/山本信記/水谷康久/カメイナホコ/森本アリ/廣田智子/不動翔子/稲田誠/楯川陽二郎/山路知恵子
4/24(日)滋賀県近江八幡 サケデリック・スペース酒游舘 出演:フェルナンド・カブサッキ
4/25(月)愛知県名古屋 パルル 出演:フェルナンド・カブサッキ/臼井康浩/平尾義之/小埜涼子
4/26(火)愛知県名古屋 パルル 出演:フェルナンド・カブサッキ/渓/菊池行記/聖澤聡
4/27(水)大阪府梅田 Shangri-La 出演:フェルナンド・カブサッキ/山本精一/OORUTAICHI/YTAMO/カメイナホコ/西滝太/渡邊みつる
4/28(木)京都府CLUB METRO出演:フェルナンド・カブサッキ/山本精一/坂田学/Marron/Pon2/神田剛/家口成樹
4/30(土)東京都八丁堀 七針 出演:フェルナンド・カブサッキ
5/2(月)東京都渋谷 O-nest 出演:フェルナンド・カブサッキ/トクマルシューゴ/ミト/イトケン/OLAibi/OORUTAICHI