©2010「十三人の刺客」製作委員会
その心配はファーストカットを見た瞬間に吹き飛んだ。
新宿昭和館という名物名画座が新宿西口にあったことを記憶している人もいらっしゃるだろう。封切り終了後の東映作品をメインとした、3本立て上映が基本の名画座で、『仁侠映画の聖地』とも言われていた。そうした由緒ある映画館で見た、オリジナル版である工藤栄一監督の「十三人の刺客」は衝撃的だった。もちろん黒澤明監督の「七人の侍」は見ていたし、ラストの雨中の決戦シーンにも感心していたが、この「十三人」のクライマックスの殺陣の方が新鮮に映ったのである。役者の肉体の動きに任せた殺陣というか、これほど型のないチャンバラがあっていいものなのか、今まで自分が見てきた時代劇の概念に当てはまらなかったのだ。横長のスコープ画面でありながら、描かれるチャンバラの動きは、画面の奥から手前という画期的な縦の構図であり、リアル感に満ち溢れていた。
そんなお気に入りの時代劇を、三池崇史監督の手によってリメイクされると聞いた時の印象は、はっきり言って不安だった。〈これをマカロニにされたら、たまらんぞ!そんなことしたら、許さんぞ!〉だった。しかし、その心配はファーストカットを見た瞬間に吹き飛んだ。オリジナル版に対するリスペクトに満ちた、人物設定と画面構成(参勤交代の引きの画が素晴らしい!)の見事さに唸ってしまったのである。特にそれらが集約されている前半は、いままで勝手に抱いていた、三池監督のイメージを一新するものであり、まさに正統的時代劇の味わいであった。そうした評価を獲得した今作は、2010年度キネマ旬報誌のベストテン第4位(読者選出では第3位)に輝き、興行成績も16億という立派な成績を収めることになった。
オリジナル版の「十三人」は、実は最終的には(東映なので当然であるが)片岡千恵蔵御大の映画である。それに対して三池版は、ピカレスク大好きの監督の面目躍如とも言うべき、悪役の存在を大きくしているところが、最大の特徴であり、違いだ。その体現者はSMAPの稲垣吾郎。これには誰しも驚き、アイドルが極悪非道の殿様を演じていいのか?と思ったことだろう。しかしこの稲垣演じる徳川斉韶のとんでもない悪役っぷりがあるからこそ、集団での暗殺劇にオリジナル以上の説得力が生まれてくるのだ。
決闘シーンのスケール感の他に、大きく変更したのが13人目の暗殺者。オリジナル版13人目の山城新伍は、決闘の場である落合宿の住人で、藤純子の恋人でもあるという設定だったが、「クローズZERO」でもそうだったように、三池さんの世界に女優は不要のようで、その二人を消して新たな13人目を設定したあたりから、本来の三池ワールドが全開となる。よって前半が正統派時代劇、後半が三池印アクションとテイストが異なり、いわゆる一粒で二度おいしい映画となったのだ。
若い役者連中が肉体アクションは出来ても殺陣は難しそうにしている中、見事なチャンバラの型を見せてくれる松方弘樹に拍手!!