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ミドリ

連載
NEW OPUSコラム
公開
2011/05/20   21:38
更新
2011/05/20   21:38
ソース
bounce 330号 (2011年3月25日発行)
テキスト
文/鬼頭隆生

 

いつもと変わらない、どこを切ってもミドリ印のステージ——そして彼らは燃え尽きた

 

 

〈さよなら、後藤さん〉という、意味深なライヴ・タイトルが発表されたのは昨秋のこと。物議を醸すなか、開催の数日前にヴォーカル/ギターの後藤まりこがネット上でバンドの解散を発表。そして12月30日の東京・LIQUIDROOMでのステージをもってミドリは解散した。こちらのDVDは、そのライヴがMCも含めてフルで収録されている(初回盤にはPVを収録した特典ディスク付き)。

薄暗い場内は開演前から異様な雰囲気で、パーティー・ドレス姿の後藤をはじめメンバーが現れると大きな声が上がる。そんな観客の熱狂をいなすかの如く、ミディアムの“鳩”でスタート。しかし続く“愛のうた”で鍵盤のハジメが観客をアジテートすると、場内は瞬く間に狂乱状態に。激しく明滅し、真っ赤に染まる照明のもと、4人は爆発的な演奏を繰り広げていく。〈デストローイ!!〉の絶叫が轟く“ゆきこさん”や、可愛らしくも毒々しい“あたしのお歌”、4人の丁々発止が圧巻の“リズム”など、そのアンサンブルはフリーキーだが、破綻しないギリギリのバランスを保っている。これは個々の高い演奏力に加えて、バンドとして振り切れる許容範囲を冷静かつ客観的に判断/把握し、その限界へ挑んできたからこそなせることだろう。ライヴでこの演奏ができるミドリは、野性的な衝動とクレヴァーさを併せ持つ稀有なバンドだと再認識した。珍しく後藤が長めのMCをしたり、アンコールではかつてのトレードマークだったセーラー服を着たりもしているが、基本的に湿っぽさはなく、わずかなそれすらも燃焼し尽くそうとする素晴らしいライヴである。後藤まりこという飛び抜けた個性が、またユニークなキャラを持つメンバーを巻き込んで突っ走る——そんな力学が作用していたミドリは、その熱量がどう転ぶかわからない危うさと輝きとが表裏一体であり、その危機感が表現力の後押しにもなり得たのだろう。それは最後の夜まで変わらず、彼らはひときわ大きな輝きを放って燃え尽きた。本作はその気高い姿を記録した、最良のドキュメンタリーでもある。

 

▼文中に登場した作品を紹介。

ミドリの2010年作『shinsekai』(ソニー)