photo:板垣真理子
多角的な視点で写されたカラフルなキューバ。世界遺産の街並み、音楽と、アフリカ伝来の神々。
目次に目を通さず冒頭から読み始めると、キューバ観光には欠かせない街であるハバナ、サンティアゴ・デ・クーバ、トリニダッド、ビニャーレス渓谷がガイド風に紹介されている。美しい写真に心は奪われるが、すでに何冊も出版されているようなガイドブックの類かな? と思いながら第2章に突入した所で、ディープな内容に引き込まれた。アフロ・カルチャーを追い続ける著者ならではの視点による音楽文化、とりわけキューバに色濃く伝承されている民間信仰サンテリーアに関する記述は、既存のキューバ関連書には見られない貴重なもの。しかも文献だけでは知りえない現地での体験を交えていることで、私たちとは全く異なる宗教や慣習が身近に、生き生きと感じられる。
キューバ観光の中で、見事な歴史的建造物や青い海以上に深く心に刻まれるのが笑顔あふれる温かい国民性だろう。習慣や恋愛観などを綴ったコラムと写真からはキューバ特有の匂いが感じられ、キューバを訪れたことのある人なら「そうそう!」と懐かしく思うはず。
第3章では有機農業、教育、医療について紹介しているが、改めてカリブ海に浮かぶ小国でありながら世界でも類を見ない独自のシステムで頑張っているこの国の強さを認識した。近所の人たちが集まって手作業で畑を耕し、ミミズが作る肥料で栄養を得た美味しい野菜を国民が消費するという農業の原点に立ち返った有機農業は、これからの世界にとって理想的なモデルとなるのではないだろうか。
第4章はカストロとゲバラについて。今年1月にカストロが発表した最新メッセージ「今、なすべきこと」が収録されているが、命を賭けて戦い抜き、引退してなお祖国の将来を気にかけている彼の生き様を読みながら、どうしても日本の現状と比較せずにはいられなかった。
親しみやすい文章と雰囲気たっぷりの写真で多角的な視点から見つめている本書は、キューバを愛する全ての人の欲求を満たしてくれるだろう。