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ウィリー・ネルソン、ウィントン・マルサリス、ノラ・ジョーンズ『ヒア・ウィ・ゴー・アゲイン〜ライヴ・インNY』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/05/28   16:01
更新
2011/05/28   20:15
ソース
intoxicate vol.91 (2011年4月20日発行)
テキスト
text:青木和富

ウィリー・ネルソンとウィントン・マルサリスが見据えるアメリカとレイ・チャールズ

ウィントン・マルサリス、ウィリー・ネルソン、そして、ノラ・ジョーンズ。それぞれのファンが違うので、一見不思議な組み合わせだが、しかし、音楽の事情に詳しいなら、もはや今の流れを象徴する共演と言える。ジャズとカントリー、そして、無理やり枠にくくるとフォークの境界が消えてしまっている。

ネルソンとマルサリスは、一昨年のネルソンのヒット作『スター・ダスト』でタッグを組んでいるので、これはその続編ということもできるライヴ・アルバムだ。場所は、マルサリスが音楽監督を担当しているニューヨークのリンカーン・センター。そんなわけでステージでバックをつとめるのもウィントンの仲間だが、ネルソンの右腕ともいうべきハーモニカのミッキー・ラファエルも重要な役を果たしている。

で、このコンサートのテーマは、レイ・チャールズである。2004年に他界したチャールズだが、その後、このジャンルを越えた偉大なミュージシャンを讃え、様々なイヴェントが繰り広げられたが、どこかそこには枠を超え、偉大なアメリカン・ミュージックはひとつというイメージがある。

音楽のジャンルの崩壊は、実は様々な現場で進行しているけれど、これはそれを精神的に表現しているものと言えるかもしれない。その中心人物はウィリー・ネルソンで、このカントリーの第一人者は、徐々にそうした世界にシフトしていった。ノラ・ジョーンズとなると、そもそもそうしたジャンルの根をもたない世代で、そして、ウィントンのジャズは、それらをまとめる鍵となっている。

レイ・チャールズの名曲が、ここにはずらりと並ぶが、しかし、それぞれが不思議な柔らかなハートをもった世界になっている。単なるヒットのカバー集ではなく、別のメッセージがそこに重なるのだ。それぞれの技量、表現力はさすがで、じっくり耳を澄まして聴いてしまう。とりわけウィントンのトランペットは、ディテイルが豊かで、いつの間にか、どこかニューオリンズの先輩ルイ・アームストロングにつながる芸とハートを感じさせる。