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『ア・セイント〜オールタイム・ベスト』 John Coltrane

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/07/04   16:08
更新
2011/07/05   16:06
ソース
intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)
テキスト
text:柳瀬川みずほ

ジョン・コルトレーン生誕85年記念!〜40歳の若さでこの世を去った、「A Saint(聖者)」の音楽

今年はジョン・コルトレーン生誕85年。67年に40歳の若さでこの世を去ることがなかったとしたら、老年期を迎えて今、どんな演奏を聴かせてくれたのだろう、なんてことを時々思う。70年代のジャズのロック化(クロスオーヴァー化)の波にコルトレーンはどう対応したのか、80年代のフュージョンの時代にマイルスのようにエレクトリック化した演奏を目指したのだろうか、90年代のアコースティック・ジャズ回帰の中でどんな威厳に満ちたプレイを聴かせてくれたのだろうか。コルトレーンの奏法の特徴はシーツ・オブ・サウンドという、その名のとおり音を敷きつめたようにコード・サウンド中のあらゆる音を吹ききるスタイルが特徴だが、徐々にそれが発展し、後期にはフリーでエモーショナルなフレージングがトレードマークとなって変化してゆく。

もしかしたら我々の知らない別の次元の世界ではジョン・コルトレーンは生きていてずっとプレイを続けているのかもしれない。彼の死後にフォロワーが後を絶たなかったのは、別世界からいつの時代にもヴァイブを送り続けていたからなのでは、とも思えてしまう。しかし、コルトレーンの生まれ変わりと呼べる逸材は、残念ながら一人も現れなかった。やはりジャズの歴史の中でジョン・コルトレーンというサックス・プレイヤーはその奏法、音色、アプローチなどすべての点において前にも後にもたった一人だけ、なのである。

さて、時代は過ぎ、今の時代を生きる音楽ファンの中にはジョン・コルトレーンの演奏を聴いたことがないという人も多くなっただろうし、また昔聴いていたがそういえば最近あまり聴かなくなったのであらためて振り返ってみたいという人もいるのかもしれない。そんな時にこのアルバム『ア・セイント〜オールタイム・ベスト』は最適であろう。

今回アルバム・タイトルになった〈ア・セイント(聖者)〉とは66年7月初来日時に東京のプリンス・ホテルでの記者会見の際、コルトレーンが「10年後はどうなっていたいか?」という質問に対して「私は聖者になりたい」と答えた有名な話からとられている。

この2枚組に収録された楽曲は〈ジョン・コルトレーンといえば、この曲〉と誰もが知る代表曲ばかりで構成され、またコルトレーンの、時に力強く、時に繊細なトーンのサックスが堪能できる演奏をチョイスしたものだ。収録された曲はタワーレコードをはじめとする一般CDショップのジャズ担当者が選んだものが中心になっており、〈店頭で聴かせたいコルトレーン〉的なセレクションが魅力となっている。レーベルも【プレスティッジ】、【インパルス】の音源をメインとしながら、【アトランティック】、【ブルーノート】の音源も収録し、マストな代表曲を最新リマスター音源(24bit、RVG24bit)で網羅。アルバムでいえば、『ブルー・トレイン』『ソウルトレーン』『マイ・フェイヴァリット・シングス』『ジャイアント・ステップス』『バラード』などのコルトレーンの有名なリーダー・アルバムに加え、デューク・エリントンとのコラボ盤、ジョニー・ハートマンとのヴォーカル・セッション、マイルス・デイヴィスとの『ワーキン』、タッド・ダメロンとの共演盤などからの楽曲であり、全20曲はどれもコルトレーンのメロディアスで、ストレートなプレイが際立つナンバーぞろい。

聴き終わった後にはジョン・コルトレーンのミュージシャンとしての素晴らしさに加え、そのヒューマンな雰囲気さえ感じられるプレイにどこか元気づけられ、思わず「ジャズってやっぱり良いよね」なんて自慢してみたくなるかもしれない。

世の中は時代とともにどんどん複雑化し、目まぐるしく変化してゆくものである。でも、そんな中で根底にある人の心(優しさ、思いやりなど)のあり方は変わらないはず。ジョン・コルトレーンの音楽もそれと似た何かを感じるのは気のせいだろうか。

TOWER RECORDS presents
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ジョン・コルトレーン生誕85周年&来日45周年記念 インパルス・レーベル設立50周年記念
8/24 SHM-CD仕様にて未発表ライヴ作などの他、旧作16タイトル再発!