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ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」&「プロメテウスの創造物」より ケント・ナガノ(指揮)モントリオール交響楽団

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/07/08   17:06
ソース
intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)
テキスト
text:藤原聡(新宿店)

ナポレオン=プロメテウス<ゼウス?

ケント・ナガノとモントリオールと言えば、2008年4月の来日公演を思い出す。その時の曲目は牧神の午後への前奏曲、海、トリスタンとイゾルデ~前奏曲と愛の死、そしてアルプス交響曲。何より感心したのが、その美しくカラフルな音色とハーモニーの美しさ、フォルティッシモでも常に明快で、全ての音が透けて見えるかのような透明感だ。また、常に余裕があるのでどれだけオケが鳴ろうとも全くうるさくないのである。ただし、これだけなら前任音楽監督、デュトワの時にも言えたことではある。ナガノは、そこにさらなるダイナミックさを付加させることに成功した、と思う。アルプス交響曲では、従来の彼らの実演やCDで中々聴いたことのないリズムの踏み込みと骨太な表現が聴けたのだが、このことは来日公演後に発売された『運命』や大地の歌でも確認できる。

さて、そこで今回の彼らの新譜、ベートーヴェン・プロジェクト第2弾の『英雄』と『プロメテウスの創造物』抜粋。こう書いてピンと来るだろうが、プロメテウスの創造物の終曲のメロディが『英雄』終楽章の変奏曲の主題に転用されている。まあこれだけならちょっと気の利いた指揮者の考えそうなプログラム・ビルディングではある。ただし、それは表面的な繋がりであって、このCDのコンセプトは当初ナポレオン(人間的意志力の象徴)に捧げられた『英雄』交響曲、と、それと音楽的な関連を持つ『プロメテウスの創造物』-ギリシャ神話でのプロメテウスとは、天上の火を盗んで人類に与えたことで、ゼウスの不興を買いカウカソス山に鎖で繋がれる-を並列させ、今現在の人間の「神」(それはキリスト教的な神でもよいし、汎神論的なものでもよい)に対する謙虚さを問うている、と読める(筆者などは、傲慢な人間による完全な「人災」原発震災を想起するのだが、突飛だろうか?)。ナポレオン=プロメテウス<ゼウス? 要は2011年におけるベートーヴェンのアクチュアリティ。ちなみに、当CDの副題が「GODS、HEROES AND MEN」。演奏について触れる余裕がなくなってしまったが、前作の『運命』以上に素晴らしい美演(この言葉を使いたくなる!)である。