ロックに年の差はあるのだろうか? 都内某所の居酒屋で夜ごと繰り広げられる〈ロック世代間論争〉を実録してみたぞ!
俺はボンゾ。東京は北区で小粋なロック酒場〈居酒屋れいら〉を経営するナイスガイだ。えっ、いつもと始まり方が違うって? うるせえな! 何しろウスラバカの阿智本が自転車で転んだとかで入院しちまったんだから、仕方ねえだろ。クソ生意気な知ったかぶり発言ばかりしているアイツが店に来なくてセイセイしているんだけどよ、今日はたまたま病院の近くに用事があったんで、ついでにヤツの泣きベソ顔でも拝んでやろうと思った寸法だ。お見舞いだと? んなわけねえだろ!
ボンゾ「おうおう、バカ本君! ご機嫌いかがかな? 買い出しに出掛けたらよ、たまたま病院が近かったんで、仕方なく顔を出してやったぞ、感謝しやがれ!」
阿智本「ここ店から10キロ以上も離れてるけど……」
ボンゾ「だから、近所の八百屋にバナナがなかったんだよ!」
阿智本「バナナの料理なんてメニューにないけど……」
ボンゾ「ボソボソ呟いてんじゃねえよ! まあいいや、それより腹減ってんじゃねえか? バナナ分けてやるから勝手に食え」
阿智本「……」
阿智本の野郎、コケたのが恥ずかしいのか知らねえが、すっかり意気消沈してやがるな。さっき医者に訊いたら2〜3日で退院できそうなことを言ってたから大した怪我じゃないんだろうが、まったく現代っ子はひ弱で困るね〜。しょうがねえな、少しハッパをかけてやるか!
ボンゾ「おお、そうだ! 景気づけにCDを聴こうぜ! 実はロイ・オービソンの生誕75周年を記念して、モニュメント時代のシングルを2枚に集大成した『The Monument Singles Collection: 1960-1964』が出たんだよ。なんつってもヒットを連発していた全盛期の音源だからな、捨て曲なんてないぜ! 当然お前も好きだろ?」
阿智本「好きどころか、誰だかすらわからないけど……」
ボンゾ「あちゃ〜、あの不思議なヴィブラートがかかった、〈ヴェルヴェット・ヴォイス〉とも呼ばれる独特の声を持つロイ先生を知らねえのかよ! エルヴィス・プレスリーらと共にロックンロール黎明期を築いた偉大なオリジネイターの一人にして、晩年にゃボブ・ディランやジョージ・ハリソンといっしょにトラヴェリング・ウィルベリーズを組んでたあのロイ先生だぜ! 流石に“h, Pretty Woman”くらいは知ってるだろ? 〈Pretty Woman Walking Down The Street〜♪〉ってな」
阿智本「映画の曲でしょ、口の大きな女優さんが出ててた……」
ボンゾ「ギャヒヒ! そう、あの映画の主題歌に使われてリヴァイヴァル・ヒットしたポップな名曲だ。ところでこの編集盤、何が凄いって、65年の初出ライヴ映像が収録されたDVDまで付いてるってんだよ。この時期の映像なんて滅多に拝めねえからな、早いとこ入手して堪能したいぜ!」
阿智本「何だよ、ボンゾさん……〈CD聴こう〉とか言っておいて、まだ買ってないの!? バカじゃないの?」
ボンゾ「まあ慌てるな、いまのは俺がこれから買いに行く予定のCDの話だ。ちゃんと別にあるんだよ、オマエが大好きとか言ってた、○○ヘッドがよ! ほれ!!」
阿智本「ウソ!? レディオヘッドの『The King Of Limbs』を買ってきてくれたの!? 花見の場所取り係に任命されたり、コピー機壊しちゃったり、入院しちゃったせいで、いまだに聴けてなかったんだよ! ありがとう!……って、これモーターヘッドじゃん!」
ボンゾ「あれ、違ったか? ヘッドしか覚えてなかったから、てっきりモーターかと……。どんまい、どんまい!」
阿智本「どんまいじゃないよ、不覚にもノリツッコミしちゃった僕の気持ちも察してよ!」
ボンゾ「でもよ、さっきのシケたツラしてた時よりも、断然血色が良くなったように見えるぜ。ま、せっかくだからモーターヘッド聴こうぜ、ラジカセ借りるぞ。ポチッとな!」
阿智本「ギャーッ、メタルなんてやめてよ! ここは病院だよ!!」
その後、慌ててすっ飛んできたナースに怒られたのは計算外だったが、阿智本が元気を取り戻したんだから、良しとするか。さて、陽気も良いことだし、ロイ・オービソンを買いに池袋までブラブラ歩くとするかね。そういやさっきのナース、ちょっとジュリア・ロバーツに似てたな。Oh〜、プリティ・ウーマン! ガハハハハッ!!