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『Died in the Wool (Manafon Variations)』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2011/07/25   18:58
更新
2011/07/26   11:27
ソース
intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)
テキスト
text:久保正樹

藤倉大との共作によって生まれた『マナフォン変奏曲』

クリスチャン・フェネス、キース・ロウ、エヴァン・パーカー、大友良英、Sachiko M……と、名だたる即興演奏家がクレジットされたデイヴィッド・シルヴィアンの2009年作『マナフォン』。世界各地で録音された即興演奏の上をデイヴィッドの漂うような詩とメロディーが折り重ねられた逸品だ。この美しき冒険の再解釈として制作されたのが本作『Died In The Wool』である。

本作は当初、ロンドン在住の現代音楽家・藤倉大が『マナフォン』の楽曲素材をもとに弦楽のアレンジ/コンポーズを施す、という主旨のものだったが、例のごとく即興的にその工程も変動し、遂には新曲6曲を含む内容となった。10代の頃よりデイヴィッドの音楽を聴いて育ち、現代音楽の巨匠、ピエール・ブレーズにも評価される若き才能との出会い。その相乗効果がもたらした結果はかくも瑞々しく挑戦的なものとなった。

冒頭から美しいストリングスが光のように射し込み、その張りつめた糸が自在に伸縮するタイトル曲では、重音奏法のクラリネットに、キース・ロウ、エディ・プレヴォらによるセッションの断片が加えられ、きめ細かなノイズがまさに毛織物のように耳をくすぐる。また、今は亡き盟友ミック・カーンに捧げられた《A Certain Slant Of Light》では、デイヴィッドらしいロマンチシズムもそうっと花を開き、胸をくすぐる。そして圧巻は18分に及ぶインスタレーション作品《When We Return You Won't Recognise Us》だろう。様々な即興演奏と藤倉指揮のセクステットが時と場所を越え、自由な音の組み合わせで新たな音楽の解釈を提示する。そしてその不安定なハーモニーをぎりぎりのところでこちら側に引き寄せるデイヴィッドの歌。それはクラシックとポップ・ミュージックという両極端で思考する実践の共感と反発であり、今、微光を発しながら回転を始めたまったく新しいドローン解釈ともいえる。