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ハーバートがもっとテクノ人だった頃

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2011/09/30   22:00
更新
2011/09/30   22:00
テキスト
文/石田靖博


長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!



今回のテクノ警察の捜査はマシュー・ハーバートです。奇怪なコンセプト全開の『One One』『One Club』『One Pig』の3部作ですっかり実験電子音楽のマッド・サイエンティスト兼パフォーマーというイメージを持たれた方も多いでしょうが、いや! ハーバートはテクノでしょ!ということで、今回は『One Pig』と同時に10周年記念盤の登場した『Bodily Functions』(2001年)を軸に語ります!


『Bodily Functions』以前のハーバートは、名レーベル=フォノからの一連のシングル、それを中心に構成されたアルバム『100 Lbs』(96年)でクリック・ハウス(その頃はケルン系、スカスカ・ミニマルと勝手に分類してたが)路線の傑作を連発していた。当時のテクノ・シーンは、それまでのハード・ミニマル大ブームの反動か、モーリッツィオことモーリッツ・フォン・オズワルドによる〈Mシリーズ〉(92~97年)やリッチー・ホウティン、DBXことダニエル・ベルなどの作品をターニング・ポイントとして淡白なミニマルへと傾いていて、かつ、やはり当時盛り上がっていたペーパーなどのUKディープ・ハウス勢やパガンなどの西海岸テック・ハウス勢の流れとクロスしていた印象があった。


そのなかでもハーバートは、その音使いのソフトさがディープ・ハウスにもリンクして、上品なテック・ハウス的ミニマルという印象が強かった。その路線の決定打となり、その後のハーバートの活動の原点となったのが『Around The House』(98年)だ。今作では、以降、長くパートナーとなるダニ・シシリアーノをヴォーカルに、非常に洗練されたディープ・ハウスを展開しているのだが、家で発生する音(洗濯機やら何やら)を素材として使用した(だからこのアルバム・タイトル!)のだった。そして、この流れでリリースされたのが『Bodily Functions』だったのだ。この作品は、タイトルから想像されるように、身体が発する音をサンプルとして使用している。とは言え、『Around The House』からの流れでダニ・シシリアーノやフィル・パーネルらが参加しており、のちのマシュー・ハーバート・ビッグ・バンドで全開になるジャズ風味も導入されていて、曲によってはモロにジャズでもある。しかし、シングルでもあった“Leave Me Now”“"Suddenly”“The Audience”“It's Only”はいま聴いても超カッコ良く洗練を極めたテック・ハウスじゃないか!


そして今回の10周年記念盤のボーナス・ディスクがまた最高! 上述したシングル群のリミックス集なのだが、ジェイミー・リデルがのちのソウルフルなスタイルを炸裂させていたり、“You Saw It All”に眼科手術音を提供したマトモスが何か不穏な物音を追加していたり、当時IDMの旗手と呼ばれたリチャード・ディヴァインが意外にも真っ当な4つ打ち仕様だったり、竹村延和やエマーソン北村も参加していたりと、非常に楽しい! そして、ハーバートによる“The Last Beat”のセルフ・リミックスとアルバム未収録曲“Back To Start”が非常にテック・ハウス度高めで素晴らしいのである。


そんなハーバートのテクノ面がもっと聴きたいという好き者には、『Bodily Functions』の前年、2000年にテクノの殿堂=トレゾーからリリースされたミックス盤『Globus Mix Vol.5 –Letsallmakenistake』が超オススメ! 彼の変名、ウィッシュマウンテンやレディオ・ボーイなどのトラックも収録された、いまでも聴くことができて、かつアガれる極上のテクノ・ミックス盤です。



PROFILE/石田靖博


クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラブ・ミュージックのバイイングを担当。現在は、ある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→最近の嬉しかったことは、DJ SHUFFLE MASTERの近況がわかったことと良いカレー屋を発見したこと。近所の東京都現代美術館で開催されている〈ゼロ年代のベルリン展〉が非常に気になる。