
かつて、田舎に住む私にとって、ジャズ喫茶に足を踏み入れるまで、ジャズは音というより、もっぱらだったし、読むこと、観ること、想像することだった。 CDが登場するまで、LPの時代は、特にそうだった。そんな環境下だったから、身近なジャズをジャズと認めることがなかなか難しいくらいに、読むことで得 たわずかな情報はジャズを、いっそう困難で、エキゾチックな音楽/テキストに仕立て上げた。はじめてジャズ喫茶に足を踏み入れたのは、高校2年生、 1979年だった。
当時、そんな高校生の過剰な想像を遥かに超えたジャズを聴かせていたレコード会社が、欧州にいくつかあった。イギリスのインカス、スイスのHat Hut、オランダのICP、ドイツのECM、FMP、そして今回、過去のアルバムをボックスにまとめて発売を開始したブラックセイント/ソウルノートだっ た。中でももっともシカゴ(A.A.C.M)とニューヨーク、セントルイス(B.A.G)に近くて、いっそう〈黒い〉音に共感していたのが、このレーベル だった。
ブラックセイントは、1975年にジョヴァンニ・ボナンドリーニが創業した、世界最大のキリスト教国下で、世界でもっとも黒い、アフロ・アメリカンの音楽 をプロデュースしつづけたレコード会社と言える。ソウルノートは、そのブラックセイントの姉妹レーベルとして始められ、やや、メインストリームによった内 容の制作がその中心だった。このふたつのレーベルが、過去に制作したアルバムをアーティストごと、プロジェクトごとにまとめ、リマスタリングして、再度、 世に問うことを始めた。いまや、ニューヨークのアヴァンギャルドの父と慕われるヘンリー・スレッギルと彼のプロジェクトであるエアー(Air)、さらにこ のレーベルの企画の中でも最良のもののひとつである、スティーヴ・レイシーのソプラノサックスのソロによるモンク集(モンクをフェルドマン/ヴェーヴェル ン的手法で演奏したもの)や、今こそ聴き直したいジョージ・ラッセル作品集、さらに日本でも人気のデヴィッド・マレイ、初期ビッグバンド作品の傑作が収録 されたものなどが発売済み。今後発売が期待されるものとしては、ジョージ・アダムスとドン・プーレンのものだろうか。しかし、いま高校生が想像するエキゾ チックでラディカルな音楽ってジャズと交わるものなのだろうか。高校生に確かめてみたい。