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芥川也寸志/早坂文雄/伊福部昭/清瀬保二/小倉朗

公開
2011/10/18   12:20
ソース
intoxicate vol.93(2011年8月20日)
テキスト
text:小沼純一(音楽・文芸批評/早稲田大学教授)
フォンテックの貴重な音源が蘇る!現代音楽4タイトル

90歳にしてバッハの《無伴奏チェロ組曲》の録音しつづけた青木十良は1915(大正4)年の生まれ。現在も雑誌に文章を寄せている吉田秀和は1913年(大正2年)生まれだから、9月で98歳を迎える。ひとの寿命は確実に延びている。現役へむけられる視線は、おなじ空気を呼吸し、おなじ時間とともに「生きている」がゆえだ。しかしこの世から去ってしまうと容易に忘却へとむかう。その意味では、「古典」となるためには、作品がいいだけではなく、音楽の場合なら、演奏されつづけることが必要となる。

幸い、いまは録音がある。どんなものでもおなじパッケージで、前世紀の、あるいはもっと以前の音楽にふれることができる。そうした録音を保持し、折にふれて再プレスされることが、忘却を遠ざけてくれ、新しい発見をもたらしてくれる。

フォンテックからの2枚組4タイトルに収められているのは、先の吉田秀和、青木十良と近い世代の作曲家たちだ。いま、どの程度認知されているのかはわからない。だが、いずれも第二次世界大戦から戦後にかけて、この列島の「芸術音楽」を押し進め、「日本」と「西洋」について思考、試行錯誤した。一種「クラシック」ではありながら、「現代音楽」の難解さがほとんど感じられないことも重要だろう。この人たちにより、次の世代の作曲家が育てられた。清瀬保二(1900-1981)から武満徹(1930-1996)、小倉朗(1916-1990)から高橋悠治(1938-)、というふうに。また、おなじ北海道の同級生であった早坂文雄(1914-1955)と伊福部昭(1914-2006)は、前者が黒澤明、後者が東宝特撮という映画の場において、コンサート作品とはべつの足跡を残した。そしてもっとも若い芥川也寸志 (1923-1989)はといえば、作家芥川龍之介の三男として、現在は「芥川作曲賞」として業績が讃えられている。

そう、これらの演奏の中心には芥川也寸志の指揮がある。自らの師と呼べる世代の作品を埋もれさせることなく、再演しつづけるという使命を抱き、そのためにも、演奏そのものによろこびをみいだす新交響楽団という場を設立し、演奏がかさねられた。これら4タイトルは、その意味で、芥川也寸志へのオマージュでもある。

作曲家の名や作品のみならず、演奏する個々人、意志や行為までも、つまりは歴史そのものが、これらの録音には詰めこまれているのだ。