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ニッポンのさしすせそ

公開
2011/10/18   12:11
ソース
intoxicate vol.93(2011年8月20日)
テキスト
text:伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)
伝統を守る調味料の製造に命を賭ける職人たち



日本では和食の調理に使う調味料の順序を指す「さしすせそ」ということばがある。砂糖、塩、酢、醤油、味噌というのが基本的な順番。その調味料にこだわり、古来の伝統を守ろうと頑張っている職人が各地に存在する。

この映像では、そうした昔ながらの製法でいまなお手作りを主体として膨大な時間と労力をかけ、こだわりの一品を作り続けている人を取材し、製造から完成までをその職人の人生を追いながら丹念に描き出していく。

料理は素材が命。その素材を生かすのは、厳選された調味料である。ここでは醤油、味噌、塩、料理酒、かんずり、しょっつる、ごま油、ソースなどが登場。先代が苦労して作り上げた味を守ろうと奮闘する職人の姿には、つい涙がこぼれるほどの感動の物語が込められている。それぞれの人たちは昔ながらの製法をいかに現代の素材で蘇らせ、昔の味を再現し、しかもそれを現代の人々の嗜好に合わせるかに身も心も削り、昼夜問わず仕事をし、ひとつの製品に命を吹き込んでいく。

製品の紹介が終わった後は、それを用いた料理が紹介されるが、どれもよだれが出そうなほどおいしそうだ。シンプルな素材を愛情かけて育て上げ、納得のいく味を誕生させた職人たちはみな一様にいい顔をし、試食後に「おいしいですね」といわれると、心の底からうれしそうな表情を見せる。

これらの調味料はどれもすぐにお取り寄せしたくなる逸品ばかり。おいしい料理を味わうとその料理人の顔が見えるというが、ここではその調味料を作り上げた職人の顔が見える。彼らは純粋に自分の満足がいく味を追求している。そこには余分な欲がまるでない。このひたむきさとピュアな精神が、これらの製品を生み出す原動力なのだろう。そこにはある種の哲学、美学がのぞく。この映像は、調味料を通して人間の生きかたを問うている。生涯を通してひとつのことを追求する、その大切さを彼らの命がけの仕事が教えてくれる。