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Vladislav Delay Quartet

公開
2011/10/18   11:29
ソース
intoxicate vol.93(2011年8月20日)
テキスト
text:久保正樹
サス・リパッティ率いる四重奏団によるスリリングな彷徨

多くの名義を使い分け、エレクトリック・ミュージック界の最深部を自在に駆ける男、サス・リパッティ。ヴラディスラヴ・ディレイ名義での陰鬱ながらもエッジの効いた音響ミニマル・ダブのほか、先日リリースされた新作『Plus』で聴かせた初期デトロイト回帰な音も記憶に新しいルオモ名義でのポップなミニマル・ハウス。さらにモーリッツ・フォン・オズワルド(ベーシック・チャンネル)、マックス・ローダーバウアー(サン・エレクトリック)とのユニット、モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオでは、ドラムとメタルパーカッションを担当するなど、常にシーンの更新に一役買う存在である。

そんな彼が、新たに結成したのが、即興音楽家、デレク・シャーリー(ベース)とルーチオ・カペーセ(バスクラリネット/ソプラノサックス)、そして元パン・ソニックのミカ・ヴァイニオ(エレクトロニクス)を迎えたヴラディスラヴ・ディレイ・カルテットだ。ここでのサスも完全にドラム/打楽器奏者として徹し、不思議なタイム感をもつ隙間だらけのリズムと破壊的なメタルパーカッションがジャンクし、こすれ、コトコトと小刻みなビートを打ったりする。そしてそんなリズムから独立し、淡々と歩みを刻むデレクのベースを軸に、ルーチオの管楽器がハウリングのような金切り声をあげる。さらにとどめはミカだ。人の皮膚をプスプス切るような鋭利な電子音に、冷たい鋼鉄ビートがそそり立ちドクドクと脈打つ。とにかく個々も危険なら全体から放たれる振動も相当に危険なのだ。

まるで80年代インダストリアル・ノイズのようにヤサぐれた反復を聴かせるこのカルテット。ケモノの咆哮のように野蛮で、しかしどこか冷めていて、狂ったヘビのように絡まり合うその音はまさに興奮の坩堝だ。また、サスによるプロダクションも素晴らしく、そんな熱がお互い邪魔することなく混ざり合い、残響の尾っぽにまで思想のつまった用心深いトリートメントを味わうことができる。じつに、これは、まったく、おいしいノイズである。