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メトロポリタン・オペラが いよいよ開幕! METライブビューイング 2011–2012

公開
2011/10/24   11:00
ソース
intoxicate vol.94(2011年10月10日)
テキスト
text:小林伸太郎

日本初全幕上演となるフィリップ・グラス作曲『サティアグラハ』に注目!

 

©Ken Howard/Metropolitan Opera


メトロポリタン・オペラのライブビューイングが、今年も11月から始まる。人気ソプラノ、アンナ・ネトレプコがプリマとしての地位を決定的にするに違いない『アンナ・ボレーナ』、イギリス気鋭の演出家、マイケル・グランデージの新演出とフレッシュなキャストが注目の『ドン・ジョヴァンニ』、ロベール・ルパージュのハイテク舞台が話題のワーグナー『ニーベルングの指環』第三弾の『ジークフリート』と、そのラインナップは話題作が目白押しである。中でも今シーズン、私が密かに最も楽しみにしているのは、12月にライブビューイングされるフィリップ・グラス作曲『サティアグラハ』だ。

この作品は、南アフリカで非暴力・不服従(=サティアグラハ)の哲学を培った、マハトマ・ガンジーの半生に焦点をあてている。インドの叙事詩、バカヴァッド・ギーターから引用されたというサンスクリッド語による台本は、もちろん大きなストーリー・ラインはあるのだが、瞑想的、哲学的な言葉で構成されていて、いわゆる伝統的な起承転結の世界とは異なる。

こう説明すると取り付きにくそうだが、そんな心配は無用だ。グラスの音楽が、作品の世界に取り次いでくれるからだ。繰り返されるシンプルなラインの律動で構成された彼の音楽は、イメージ豊かな台本の言葉に、静かに寄り添う。たとえ厳しい弾圧の時を描いても、ガンジーの静かな抵抗そのもののように、そこには押し付けがましい誇張は全くない。
ロンドンのパフォーマンス・グループ、Improbable(「あり得ない」とでも訳せるだろうか?)の2人、フェリム・マクダーモットとジュリアン・クローチによるプロダクションも、そんなグラスの音楽にぴったりと寄り添う。巨大パペットやプロジェクションを駆使した彼らの舞台は、その豊かなイメージで観客の想像力を、さらに自由な世界に放つのだ。決して短くない上演時間だが、そのシンプルな舞台は、彼らの世界に永遠に居させて欲しいと思わせてくれる、宝珠の美しさだ。

2008年にガンジーを歌ったリチャード・クロフトのテノールも、そんな作品の世界に相応しいピュアな響きを聴かせてくれる。彼の深い共感に満ちた演唱は、全幕を通じて鮮やかなガンジー像を現出させ、高く評価された。特に終幕のストイックな姿は、歌声とともに忘れ難い。クロフトを始め、初演時の出演者の多くが今回も集められたようだ。指揮台にも、初演時にMETデビューして好評だった、ダンテ・アンゾリーニが再び登場する。

3年前のMET初演時は、評判が評判を呼び、シーズン最大のヒット作の一つとなったMETの『サティアグラハ』。この曲は、日本ではまだ全幕上演されていないというが、今回のライブビューイングは、そのユニークで深い世界を体感出来る、貴重な機会になるだろう。オペラファンはもちろんのこと、普段オペラに二の足を踏む方々にも、ニュートラルな心持ちで、是非ご覧頂きたい。

 

 

 

METライブビューイング 2011–2012

第4作 グラス《サティアグラハ》
指揮:D.アンゾリーニ 出演:R.クロフト
上映時間:4時間8分(休憩2回)
上映期間:2011年12/10(土)〜12/16(金)
配給:松竹 http://www.shochiku.co.jp/met/