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Wynton Marsalis&Eric Clapton 『プレイ・ザ・ブルース』

公開
2011/10/25   13:18
ソース
intoxicate vol.94(2011年10月10日)
テキスト
text:若林恵

ブルースの沼にみちびかれて



「Jazz at Lincoln Center」はニューヨークのリンカーン・センター内にある複合施設で、そこで行なわれるジャズに特化したプログラムの総称でもある。コンサートホールを3つ擁するこの施設において、ときに年間3000以上のプログラムが開催されるという。ウィントン・マルサリスはここの芸術監督であり、レジデントビッグバンドである「ジャズ・アット・ザ・リンカーン・ジャズオーケストラ(JLCO)」の監督でもある。ウィントンが率いるようになってからJLCO名義ですでに12枚のアルバムが出ており、その内容はアフリカン・パーカッションとの共演からミンガス、エリントン、コルトレーンのトリビュート、パコ・デ・ルシアを迎えたスペインをモチーフにしたオリジナル楽曲作品など幅広い。なかにはピュリッツァー賞受賞作もある。こうした活動と平行する形でウィントンはこの間、カントリーの大御所ウィリー・ネルソンとの共演盤、そのウィリーとノラ・ジョーンズを迎えてのレイ・チャールズへのトリビュート、フランスのアコーディオン奏者リシャール・ガリアーノとのライヴ盤など、八面六臂の活躍を展開してきた。そうした活動を一言で言うなら、いにしえのニューオリンズ・ジャズを通してジャズ史全体を俯瞰しつつ新たな歴史地図を書き上げる試み、となろうが、近年はそれをさらに拡張し、カントリーやフォーク、さらには世界各国の音楽といった異ジャンルのなかに「ジャズ」と通底する隠れた水脈を探るような大胆さを見せるにいたっている。

エリック・クラプトンをメインのゲストに据えた本作は、その伝でいけばイギリスへと渡って独自に花開いたブルーズという果実を今一度その原産地に回収し、再移植したものと理解することができる。たとえば《レイラ》。誰もが知るロックの名曲は、スローなフューネラル・マーチに仕立て直されスワンピーな空気をまとうことによって南部の濃密な香りをそのうちに秘めていたことを明かす。ブルースロックの神様のなかに、ウィントンはまだ明かされていない「ブルーズの真実」を探り当てようとしているのだろう。