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Miles Davis

公開
2011/10/26   12:53
ソース
intoxicate vol.94(2011年10月10日)
テキスト
photo&text:内藤忠行(写真家 PM-X)

マイルスにくそったれヤローと言われたい。

マイルスが永眠してから20年もたつ。1968年から1975年にかけての未発表トラックが次々にCD化された。電気楽器を導入しジャズ、ファンク、ロックに現代音楽、それにインド、アフリカのリズムを注入し。創り上げたポリリズムのサウンドが好きだ。そして唇とあの美しい指先の微妙なタッチから生まれる音色に愛撫され続けているからマイルスがこの世にいないという実感はあまりない。残念に想うことは新作を聴けないことだ、入院する前に彼の頭の中で鳴っていたいくつかのサウンドがどんなものだったのか聴けないのがくやしい。きっとカッコいいラップがいくつかあったと想うからだ。

マイルスを初めて撮ったのは1971年ニューヨークのジャズクラブだった。仕事が終わり帰国を少し伸ばそうと思っていたところ『ガスライト』にマイルスが出演する噂を知りニューヨークにとどまった。聞いたこともないクラブだったけど探しあて行ってみると、5、6人しかいなかったが、楽器が並んでいたので一番前の席を取った。誰も本当に来るか分からないと言っていたけれど瞬く間に満席になった。なにしろ憧れのマイルスに初めてレンズを向けるのだから期待で胸がいっぱいだった。拍手がおこった。予定より40分遅れでメンバーに続きマイルスが闇の中から現れた。トレードマークの黒いサングラスはしていない。マイクの前に立ったマイルスには照明が当たらないようにセットされていた。ジャックのドラム、キースのエレクトリックピアノ、マイクのエレクトリックベース、アイアートのパーカッション、ゲイリーのアルトサックスとソプラノサックス、そしてワウワウペダルを装着したマイルスのセクステットだ。 ボトムアップした靴を履いた左足はロックギタリストのようにワウワウペダルを操り、うなりをあげて始まった怒濤のサウンドは俺を圧倒した。ジャズ、ファンク、ブルースにアフリカを内包したポリリズムを自在にかいくぐり、俺のハートを突き刺し、麻薬のように脳を飛翔さす。しかし照明が暗すぎて目では見えるのだがどうしようもなかったが、俺の後ろ右側の方でストロボをたくやつが現れた。ヤツがシャッターを切る直前にタイミングを合わせシャッターを切った。のちに(その写真はフィルモアウエストのライヴ、『BLACK BEAUTY』のLPジャケットのカヴァーになった。)

マイルスを表現するには視覚と聴覚を全開にし、その場の雰囲気を察知し緊張感を持って望まなければだめだ。暗くて想うように撮れなかったけれど憧れのマイスルのライヴを初めて体験した喜びをかみしめた。特にブルース・ファンク的なリズミックなサウンドに包みこまれた時はたまらなかった。

その後4回ほどマイルスを撮るチャンスに恵まれた。望遠レンズでのステージの立ち居振る舞いやポートレイトを撮った時の観察からサウンドだけでは解らない双子座の6重人格を垣間見る。自らを先に進めるため、クラッシックの音楽理論やオペラを勉強し自分のサウンドにどう消化するか探究し、時には闇黒の王子となり深い闇を徘徊する天才の孤独と狂気。光に満ちたマリブでは、ジェミニ、カインド・ブルー、カラと言う名の3頭の馬と暮らし触覚と目で愛し合う。そしてアトリエに入って絵に没頭する。自然つまり、プリミティブとモダンの両極を瞬時に移動できる感覚から生まれるサウンドが俺の手本とするところだ。生涯創造と進化を繰り返し、音楽の地平に金字塔を建て続けたトランペットの詩人の冥福を祈る。

マイルスが極楽浄土からこの写真を見てこのくそったれヤローと言ってくれればいいな。

内藤忠行(ないとう・ただゆき)

写真家(PM-X)。1964年よりTOKYO-NYCでJAZZを撮り始めジャズの巨人たちの表現に惹かれ、それを写真に応用してきた写真家。'70年 代に、渡辺貞夫、日野晧正の写真集やニューオリンズなどの展覧会を通しJAZZに深く関わる。ジャズへの傾倒は、'74年から始まるアフリカ取材へと展開 し、ゼブラを扱った映像《ZEBRA》では、ジャック・ディジョネットとレスター・ボウイを起用し、レコード制作も行う。また、幻想的な桜の世界を表現し た《SAKURA-COSM》や四季折々の自然が加わることで美が表出する《庭》などを通して日本人の美的DNAを伝えている。蓮の多面を現代に対比した 《BLUE LOTUS》など精力的に活動を行っている。現在鎌倉鶴岡八幡宮から「神の気配」を撮ってほしいと依頼された写真集を来年5月に出版するため、編集作業に 入っている。http://www.p-om.net