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映画『50/50 フィフティ・フィフティ』

公開
2011/10/27   11:00
ソース
intoxicate vol.94(2011年10月10日)
テキスト
text:村尾泰郎

©2011 IWC Productions,LLC

悲しみも笑いも半分半分。
ユーモラスでハートフルなガン闘病記

酒も煙草やらないし、車の運転もしない。毎朝ジョンギングに出かけ、車が一台も走っていなくても赤信号になったら必ず止まる。そんな律儀な27歳、アダムは、ある日、病院で思いもよらない宣告を受ける。なんと、アダムはガンを発病していて、5年後の生存率は50%(フィフティ・フィフティ)。もし、転移してしまったら、さらに生存率は10%に下がってしまう。身体に悪いことなんて一切やっていなかったのになぜガンに!? なんて落ち込んでいる場合じゃない。両親や親友、恋人を巻き込んで、アダムの不安に満ちた闘病生活が始まった……。映画『50/50 フィフティ・フィフティ』は、そのタイトルどおり生存率50%の状況に立たされた普通の青年の物語で、脚本を手掛けたウィル・レイサーの実話をもとにしている。この〈50%の生存率〉というのが微妙なところで、それを低いと見れば絶望が待ち受けているし、高いと見れば希望もわいてくる。最近流行りの〈難病もの〉映画だと、間違いなく主人公の生存率は0%。余命宣告をされた後、残された命を燃やして感動のラストへ、というお決まりのコースだが、『(500)日のサマー』のジョセフ・ゴードン=レヴィットが演じるアダムは悲劇のヒーローにも成りきれず、なんだか漠然とした絶望を抱えたまま未知の世界=ガンとの闘病生活へと踏み出す。この煮え切らないモヤモヤ感が映画にペーソスと親しみやすさを醸し出していて、そこがありきたりの難病ものと違うところ。レイサーがコメディを手掛ける脚本家だということも影響していて、ユーモアを散りばめながらアットホームにガンとの闘いが描かれていく。

自分がガンであることを何とか受け入れたアダムは、まず恋人のレイチェルに打ち明けて、「これから大変になるから別れてもいいよ」と大人な提案をする。レイチェルは涙を浮かべ、「あなたを支えるわ」なんて言ってくれてひと安心(でも、あとで大変なことに)。アルツハイマーの父の世話をしている母も息子のアダムのために同居を申し出てくれたりと、みんなが温かく支援してくれるなか、とりわけアダムの支えになるのが親友のカイルだ。カイルはアダムと正反対の性格で、声はデカいしジョークも下品。いつも女のことしか考えていないが、なぜかアダムと妙にウマがあう。そんなカイルを演じたのが、いまコメディアンとして絶好調のセス・ローゲンだ。ローゲンはウィル・レイサーの友人で、レイサーに実体験をもとにした脚本を書くように薦めた張本人でもある。カイルはローゲンを念頭に書かれたようなもので、役にハマっているのは当然なのだが、ローゲンがしっかりとアダム役のレヴィットに絡むことで、本作は最近のハリウッド・コメディでトレンドになっているバディ・ムーヴィーとしても楽しめる仕上がりになっている。

気持ちが塞いでいるアダムをガールハントに誘って、「ガンだと告白したら、どんな女でも落ちるから」と無理矢理、女性を口説かせるくだりは、脚本家が〈当事者〉だったからこそアリなシニカルなユーモアだが、ガン治療を受けるにあたって頭を丸刈りすることを決意したアダムにマイケル・スタイプみたいになっちまうぞ!」と悪態をつきながら〈断髪式〉に付き合ったり、アダムのガンをネタに夜のクラブへナンパに連れ出したり。そうやって、ふざけながらも恋人以上に甲斐甲斐しくアダムをサポートする姿は、ある意味、理想のバディ像といえるかもしれない。そうした役作りはローゲンの得意とするところで、レヴィットが演じるシニカルで神経質なアダムとの相性はぴったりだ。このアダムとカイルの関係に象徴されるように、映画では悲劇と喜劇のバランスが絶妙なさじ加減でブレンドされている。カイルをはじめ、アンジェリカ・ヒューストンが演じる鬱陶しいくらい心配性の母親や、どうみても頼りない新人のセラピスト、キャサリンなど、個性的な脇役たちは真面目にアダムのことを心配するけど、その調子はずれな行動は〈悲劇〉と〈喜劇〉の境界線で揺れている。例えば初めて息子からガンであることを聞かされた母親が、すっかり動揺して「ガンの予防にいいから」と緑茶を入れようとして、アダムに「いや、もうガンにかかってるから」と突っ込まれるシーンなんて、痛々しさと笑いの両方を感じさせる絶妙なツボを突いてくる。このあたりのバランス感覚の良さは、新人監督ジョナサン・レヴィンのセンスが光るところ。ジム・ブラックが選曲したサントラもロックやソウルなど多彩な音楽が物語を彩っていて、『(500)日のサマー』〈闘病篇〉とでも言えそうな軽やかな語り口だ。100%の涙ではなく、笑いと感動がフィフティ・フィフティ。あまりに非日常的で大きな悲しみばかりの世の中で、観終わった後に平凡な日常や大切な人々との会話が愛おしくなる、そんな、ささやかで爽やかな物語だ。

映画『50/50 フィフティ・フィフティ』
監督:ジョナサン・レヴィン
脚本:ウィル・レイサー
音楽:マイケル・ジアッキノ
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット/セス・ローゲン/アナ・ケンドリック/ブライス・ダラス・ハワード/アンジェリカ・ヒューストン
配給:アスミック・エース(2011年 アメリカ 100分)
2011年12月1日(木)、TOHOシネマズ渋谷、TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー!

http://5050.asmik-ace.co.jp/