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Brad Mehldau, Kevin Hays & Patrick Zimmerli 『Modern Music』

公開
2011/11/02   11:00
ソース
intoxicate vol.94(2011年10月10日)
テキスト
text:相原穣

来るべきは「モダン」の超克か


このアルバムの設計図を手掛けたのは、作曲家/アレンジャーのパトリック・ジンマーリ。クラシックとジャズを跨いで活動するジンマーリを介して、それぞれ旧知だったブラッド・メルドーとケヴィン・ヘイズという2人のジャズ・ピアニストがコラボレートし、「モダン・ミュージック」に向き合った。アルバム名の『Modern Music』は、収録曲の1つであるジンマーリの曲名だが、同時に盤全体のコンセプトでもあることは、自分達の曲の他にライヒやグラスの曲をフィーチャーしていることからも分かる。だが、今の時代、「モダン・ミュージック」という語は扱いにくい。前衛の波が1970年代以降引いてしまうと、その言葉からは革命の響きが消え、茫洋としたものになってしまった。7曲目のジンマーリによる《Modern Music》を聴いても、もちろん頭をガツンとやられたりはしないし、ライヒやグラスの名も今やノスタルジックでさえある。

しかし、それでいて、アルバムを聴いていると、今の時代とリンクしながら湧き上ってくる確かな興奮がある。ライヒがかつて新たな地平を開いた《18人の音楽家のための音楽》やグラスの傑作である《弦楽四重奏曲第5番》はもちろん、1曲目の《Crazy Quilt》をはじめ、全体はミニマルなものへの親和性に満ちているが、それが3人のミュージシャンに新たなメカニズムを与え、新たな可能性へと後押しする。メルドーのインプロヴァイゼーションは、解体よりも構築への意志を強烈に感じさせるが、そこに見られる周到な緻密さ、絶妙なバランス感覚、理知的な高揚感こそ、現代という時代を確実にとらえている。オーネット・コールマンの《Lonely Woman》と言えば、解体の急先鋒であったフリー・ジャズを象徴するアルバム『ジャズ来るべきもの』(1959)の冒頭を飾った曲。その演奏演奏でも、メルドー達はリスペクトしつつ、自分達の美学を貫いている。