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MICHAEL JACKSON

連載
360°
公開
2011/11/29   14:45
更新
2011/11/29   14:45
ソース
bounce 338号(2011年11月25日発行号)
テキスト
文/池谷昌之


マイケル・ジャクソンの神話……WHO'S IMMORTAL?





マイケル・ジャクソンの〈ニュー・アルバム〉として、残された者たちによって完成された『Michael』のリリースからすでに1年が経とうとしています。その間も、最近では追悼公演にまつわるゴタゴタや担当医の有罪判決など、相変わらず音楽以外の部分で話題が飛び交っていますが、それは生前と同じように今後もマイケルを取り巻き続ける宿命なのでしょう。一方で、敬意と共に歌われた素晴らしいカヴァーやオマージュも生前と変わらず生まれ続けており、彼の音楽遺伝子が未来に受け継がれていく様子も改めて確認できたことは幸いです。そういった部分の紹介は別項に譲るとして……いままた彼に関する作品が大きな話題を呼んでいます。それがこのたびリリースされた『Immortal』です。

同作は、マイケル・ジャクソンをテーマにしたシルク・ドゥ・ソレイユの公演「Michael Jackson The Immortal World Tour」のサウンドトラック的なアルバム。サーカスを主軸にしつつ、躍動感の溢れる群舞と芸術的な舞台演出で魅了するシルク・ドゥ・ソレイユにはマイケルも足を運んでおり、自身のステージへ採り入れたものもあったといいます。彼らがアーティストをテーマにするのはこれが初めてではなく、ビートルズの楽曲を大胆に用いた『Love』とエルヴィス・プレスリーを取り上げた『Viva Elvis』がすでに好評を博しており、今回の「Michael Jackson The Immortal World Tour」の企画自体もマイケルの生前から準備されていたものだそう。公演のスタッフには、(ケント・モリのマイケル追悼パフォーマンスも披露された)マドンナの〈Sticky & Sweet Tour 2009〉のディレクターを務めたケヴィン・アントゥーンや、「THIS IS IT」の振付師だったトラヴィス・ペイン、マイケルの〈Dangerous World Tour〉でメイン・ダンサーに抜擢されていたジェイミー・キングら錚々たるメンバーが名を連ねています。何よりマイケルの作品やツアーに深く関わってきたキーボードの名手、グレッグ・フィリンゲインズがミュージカル・ディレクターを務めていることにも注目でしょう。

肝心の楽曲はジャクソン5期を含むすべての時代からのベスト・オブ・ベストと言える選曲で、イントロや曲間にアレンジを加えたり音の抜き差しが施されてはいますが、基本的に原曲の雰囲気を残した仕上がりです。ショート・フィルムの台詞を挿入した“Bad”やイントロを大胆にアレンジした“Jam”をはじめ、恐らく実際の公演で機能すると思しき部分もあり、パフォーマンスと共に耳に入ればさらに意図がクリアになるのでしょう。ですが、膨大な楽曲それぞれのエッセンスを解体/再構築しつつも原曲のテイストを尊重した音楽絵巻は見事というほかなく、なかでも“Billie Jean”ほか4曲を用いて展開するオリジナル楽曲“Immortal Megamix”が聴きどころです。

あるアーティストを指して〈それ自体がジャンル〉などという物言いに相応しいアーティストなど滅多にいないはずですが、それがマイケル・ジャクソンならば異を唱える人はいないでしょう。彼を題材にした公演をシルク・ドゥ・ソレイユが完成させたという今回の一例は、彼の音楽や存在自体がジャンルとして屹立し、別種のエンターテイメントに昇華できるほどの強度と普遍性を持っているという新たな証でもあります。マイケル・ジャクソンの残したものは不滅(イモータル)どころか、何度でも生まれ変わり続けるのです。

 

▼関連盤を紹介。

左から、マイケル・ジャクソンの2010年作『Michael』(Epic)、ビートルズの音源を用いた2006年の『Love』(Apple/EMI)、エルヴィス・プレスリーの音源を用いた2010年の『Viva Elvis』(Legacy)

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