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革命は起こせる!? プライマル・スクリームとMC5のライヴ盤

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2011/11/30   17:59
更新
2011/11/30   17:59
テキスト
文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、プライマル・スクリームとMC5の共演を収めたライヴCD+DVD『Black To Comm: Live At The Royal Festival Hall』について。ここで鳴っているギターの音を聴くと、僕は革命を起こせそうな気がしてくる――。



ジミー・ペイジ、エッジ、ジャック・ホワイトのギター映画「ゲット・ラウド」。〈自分とは何なのか〉をギターに語らせようとする男たちの物語に感動しました。

そのなかでいちばん感動したのは、67歳のジミー・ペイジがリンク・レイの“Rumble”をかけて、リンク・レイのギターがどれだけ素晴らしいかを満面の笑顔で説明するところです。“Rumble”ですよ。ギターの練習曲みたいな曲です。DとEのコードが押さえられるようになったら〈ジャー、ジャー、ジャーン〉と誰でも弾ける曲。 途中の〈ギャギャギャギャ〉と上がっていくリード・ギターはジミー・ペイジのリード・ギターにそっくりでビックリしました。

ジミー・ペイジは“Rumble”を53年以上聴いているんでしょうけど、まだ感動するんです。67歳のオジイちゃんが。億万長者となったジミー・ペイジの豪邸に作られた素晴らしいリスニング・ルームで聴いているんですよ、アメリカのホワイト・トラッシュの代表のような“Rumble”を。最高じゃないですか。

日本も67歳のオジイちゃんたちが100万くらいするモズライトを持って、テケテケやっているか。でも、それとは何か違う感じがする。外国はちゃんとブルースやロックが何なのかわかっている。

……って、僕はジミー・ペイジに何て失礼なことを言っているんでしょう。でもエッジも映画のなかで、ジャック・ホワイトに「ジミーはパンクが何なのかわかっているよね」と言ったりしていて恐ろしかったです。もっと恐ろしかったのは、「キンクスでも弾いているよね」と普通に訊いていて、あの“You Really Got Me”のパンクな名リフを弾いているのがジミー・ペイジだったと遂に本人から語られるか!?という緊張場面もあったこと。でも、レッド・ツェッペリン“Communication Breakdown”の、あのギターはパンク以外の何ものでもないでしょう。

僕も48歳のオッサンですけど、“Rumble”は大好きです。でも、もっと好きなのはMC5の“Ramblin' Rose”や“Kick Out The Jams”です。もう何回も聴いているのに、いまだに興奮してしまいます。プライマル・スクリームとMC5の共演ライヴCD+DVD『Black To Comm: Live At The Royal Festival Hall』はまさにそんな作品でしょう。

何十年経ってもリスペクトしてしまうMC5のアルバム『Kick Out The Jams』。観客の手拍子から始まって、革命を煽動するかのようなMC、そして、それ以上の爆発を起こすギターの音。僕はいまだにこれを聴いたら革命を起こせるんじゃないかと思ってしまいます。

たぶん、プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーもずっとそれを追い求めているんだと思うんです。革命なんか起こせるのかどうかわからないんですけど、僕はこのギターの音が革命だと思うんです。そして、何十年経っても古臭くならないのがいいです。このライヴ盤の何がいちばんいいかって、そこなんですよ。MC5のウェイン・クレイマーはもちろん、プライマル・スクリームのアンドリュー・イネスのギターもいいんです。プライマルで上手いギターと言えば、リトル・バーリーのバーリー・カドカンのギターなんでしょうが、ここではアンドリュー・イネスのP-90のシングル・コイルの〈ジャーン〉というギター・コードの音が最高にいいです。あんまりプライマルでは語られないんですが、アンドリューのギターは凄くいいんですよ。

『Black To Comm: Live At The Royal Festival Hall』は、そういう〈ずっと追い求めている人たち〉の祭典なんですよ。だから聴いていると、観ていると、楽しくなってくるのです。最初、プライマル・スクリームは慣れない椅子席の会場で苦戦しています。それがMC5の登場の頃には熱くなって、プライマル・スクリームとMC5が共演する頃には『Kick Out The Jams』の頃のような革命が起こりそうな熱い感じになっている。こんな世の中、革命なんか起こんないですよ。でも、この映像のギターの音を聴いていたら、僕は革命が起こりそうだなと思ってしまうんです。バカかもしれませんが、僕はそうやって、生きてきたのです。

67歳になったジミー・ペイジもそうでしょう。MC5と共演しようとするプライマル・スクリームもそうでしょう。バカなんです。でも楽しいんです。ずっとこんな音楽を聴いていきたいです。そして、いつまでも〈革命は起こせるんだ〉と妄想して生きていきたいです。

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