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ロシア・ピアニズムの継承者たち

公開
2011/12/26   12:28
ソース
intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)
テキスト
文 伊藤圭吾(渋谷店)

今こそ彼らを聴かなくてはならない

すみだトリフォニーホールにおいて昨年末より行われてきた連続演奏会『ロシアピアニズムの継承者たち』。毎回、ピアノ音楽愛好家やロシアピアニスト・ファンの輪を超え大きな反響をもたらしてきたが、2012年の春、いよいよ佳境の第2期日程に入る。

ロシア・ピアニズム(ピアノ演奏におけるロシア派)とは、いかなるものか? 一人一人の奏者を聴き比べればその実態、けして一様ではなく、豪快な猛者に典雅な巧者、楽譜に忠実な正統派もいれば逸脱を畏れぬ大ロマン主義者もいるという始末。こうした多様性を〈派〉として緊密にまとめるのはもちろん師弟の強い絆だが、その上にまた、ロシアという場所で歴史的に形成された共通の気質のごときものがあるように思われる。

ロシア語で〈タスカ〉と呼ばれる感情。寒く貧しい土地より飛翔せんとする情熱と大志、そうした自己を一歩引いた目で見つめる憂愁の眼差し。プーシキンやチャイコフスキーの作品にもこめられたこの内的葛藤は遅れて近代化を始めたロシアにおけるピアニストたちにも抱かれてきたのではないだろうか。

しかし今や21世紀。帝政ロシアはおろかソヴィエト連邦すらすでになく、3人の偉大な教師、イグムノフ、ゴリデンヴェイゼル、ネイガウスのもと隆盛を誇ったモスクワ音楽院ピアノ科も昔日の勢いを失ったとも言われるが、それがゆえに〈ロシア・ピアニズム〉の現在が一層問題となるのだと思う。今こそ彼らを聴かなくてはならない。

イグムノフ派とネイガウス派の流れを一身に受けとめ、フランス人すら唸らせるドビュッシーを聴かせるデードワは、佐藤泰一氏がかつて「未来のモスクワ音楽院を背負って立つ大器」と絶賛した傑物。
わが国でもお馴染み、多くの名盤をものにし今や大家の貫禄エデルマンは米国ジュリアード音楽院出だが、ネイガウスの生徒だった父親からの教えを今も胸に暖め続けているという。

そしてジルベルシュタイン。モスクワ音楽院を尻目に私学としてスタートしたグネーシン音楽学校、独立独歩の気風を持つこの名門に育ち、幼少期から満開に咲かせた才気に近年ますます磨きをかけての来日。

何れも聴き逃せない注目の奏者、プログラム。彼らが繰り広げるシリーズ第2期。今から待ち遠しく楽しみでならない、と言ったら鬼が笑うか…。

LIVE INFORMATION
『ロシア・ピアニズムの継承者たち』 

2/11(土) 第4回 ラリッサ・デードワ
3/29(木)4/3(火) 第5回 セルゲイ・エデルマン
4/30(月・祝) 第6回 リリヤ・ジルベルシュタイン
会場:すみだトリフォニーホール
http://www.triphony.com/