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ミニマル馬鹿でゴメンね! 究極のミニマルが再発!!

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2012/02/02   23:00
更新
2012/02/02   23:00
テキスト
文/石田靖博


長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!



当〈テクノ警察〉を愛読されている物好きな皆さまは、〈テクノ警察ってよりは、ミニマル警察なんじゃね?〉というもっともなツッコミをされるかもしれないですが、今回もミニマルです。いや、それでもこれだけは紹介させてくれ~(羽交い締めされながら)!

な、なんと初期レジスのベスト・アルバム『1994-1996』がリリースされたのだ! レジスとは、かのサージオンが衝撃のデビューを果たしたレーベル=ダウンワーズの主宰的存在であるカール・オコーナーのプロジェクトである。レジスの何がスゴかったのかと言えば、今回のベスト盤でも1曲目を飾っている、1995年に発表された12インチ『Montreal』に収録の“Speak To Me”であろう。ミニマルと言っても、ほとんどはブレイクや曲展開がちゃんとあったりするのだが、この“Speak To Me”はホントに1フレーズのみで構成されているのだ(正確には音色の変化とかで多少展開らしき流れはあるが)。

この曲はハード・ミニマル系DJミックスでは最高傑作の一つである田中フミヤ兄さんの『MIX-UP』(乞再発!)の冒頭で使われ(2枚がけが超カッコ良い!)、かのDJシャッフルマスター(乞復活!)が〈テクノ史上の最重要盤〉と語った、ジェフ・ミルズやスティーヴ・ビックネルなど当時のハード・ミニマル系DJは皆プレイした神曲なのだ……と煽ってみたが、“Speak To Me”は単独で聴いてもホントに同じフレーズが延々と続く、ミニマルの門外漢にしたら〈デッキが壊れたか?〉と思う曲なのである。

だが、DJにとって〈曲展開がない〉とはプレイ時に展開やブレイクを計算する必要がないということだし、ジェフ・ミルズ以降の曲と曲を重ねることによって新たなグルーヴを生み出すというプレイ・スタイルにはバッチリ合ったため、この“Speak To Me”はヘヴィー・プレイ&大ヒット。以後はDJ用の素材に徹したトラックが人気となり、その流れでユーザーやベン・シムズのキラーバイトが出てきたのである。つまり、“Speak To Me”はテクノの流れを変えた曲だといっても過言ではないのだ。

そして”Speak To Me”を聴くと、ミニマルの本質をも考えさせられるのだ。例えば漢字の書き取りなどで同じ字を延々と書き続けていると、その字が本来の意味や形からズレた、単なる記号や図形に思える瞬間を感じることはないだろうか? 人は延々と同じことを繰り返し見聴きすることで、恍惚とも呼べる変な感覚を味わう瞬間がある。これを音楽的に突き詰めたのがクラシックで言うところのオスティナートであり、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスなどによって展開されたミニマル・ミュージックなのである。つまり、ミニマルは決して特殊な手法ではなく、連綿と続く音楽的アプローチの一つなのである。

話を戻して、2000年代の動きは地味だったレジスだが、盟友のサージオンの復活と時を同じくして活動が活発となり、NYミニマルのヴェテラン=ファンクションとのレーベルであり、ユニットでもあるサンドウェル・ディストリクトで再浮上。ドローンな氷結ミニマルを披露し、マルセル・デットマンの最新ミックスにも収録された。

挙句はデペッシュ・モードのマーティン・ゴアと、元デペッシュのリーダーだったイレイジャーのヴィンス・クラークによる話題の同窓生ガチ・テクノ・ユニット=VCMGのリミックスを手掛けたりと、レジス近辺はますますおもしろくなりそうですよ!



PROFILE/石田靖博


クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラブ・ミュージックのバイイングを担当。現在は、ある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→Perfumeのライヴで泣き、オザケンのライヴ申し込みを忘れて泣き、いろんな人たちの訃報に泣き……と、涙も涸れる日々です。