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映画『アーティスト』──21世紀に作られたモノクロ・サイレント映画

カテゴリ
o-cha-no-ma CINEMA
公開
2012/03/12   20:27
ソース
intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)
テキスト
text : 小田島久恵

現代人をアツくさせ、涙もろく熱狂的にさせる何かがある!

21世紀に作られたモノクロ・サイレント映画。それって、本当に面白いの? と思って観てみたら、これがとんでもない! 最初から最後まで一瞬たりともスクリーンから目が離せない。台詞を喋らない俳優たちは、とても饒舌で生き生きとしていて、信じられないほどビューティフルなのだ。アカデミー賞主要10部門ノミネート作品『アーティスト』は、観た者を確実に魅了する映画だ。本場フランスでは初登場一位の大ヒット。「タイム」誌が選ぶ映画ランキング一位、英カーディアン誌が「映画館で見るべき」とイチオシし、デイリーテレグレフ紙、ヴァラエティ誌など世界中のメディアが大絶賛している。現代人をアツくさせ、涙もろく熱狂的にさせる何かが『アーティスト』にはある。

舞台は1920年代後半のハリウッド。サイレント映画の大スター・ヴァレンティンと、新人女優のペピーの出会いから物語は始まる。大部屋女優のペピーは、ヴァレンティンに淡い恋心を抱くが、既婚者であるヴァレンティンは彼女を大切に想い、かわりに先輩としての「スターの知恵」を与えていく。そして時代はサイレントからトーキーへ。古いスターは転落し、時代の波に乗った若い女優は次々とヒット作を放つ。1929年10月に勃発した世界大恐慌が、二人の明暗をさらに濃厚にしていく…。

この物語が暗示しているのは何だろう? 1920年代、人々は未来主義的な昂揚感の中で生きていた。テクノロジーの発達が、「喋る俳優たち」の魅力をアピールし、映画はこぞってトーキーへ移行した。当時は「進歩すること」が良いことだったのだ。しかし、「進歩すること」は、本当によいことだったのか…? 主人公はなぜサイレントを愛し、古い世界にとどまろうとしたのか。それはここが完璧で、魅力的な王国だったからだ。その真実をサイレント映画である『アーティスト』は証明してみせる。

監督のミシェル・アナザヴィシウスは1967年生まれ。テレビ界からキャリアをスタートさせ、パロディ映画のヒットを何本か撮った後、膨大なサイレント映画を研究して本作を撮影した。新人女優ペピーを好演するベレニス・ベジョはアザナヴィシウス監督のパートナーである。

主役の大スター、ヴァレンティンを演じるジャン・デュジャルダンは、フランスでは人気コメディアンとして知られる名優。金髪にイエローのTシャツの「BRICE DE NICE」は彼の大ヒットおバカキャラで、『アーティスト』でのシリアスな演技は彼の新しい魅力をアピールしている。ハンサムなスマイルは、往年のエルンスト・ルビッチ映画のフランス人俳優、モーリス・シュヴァリエを彷彿させる。

本作での名演技を評価され、カンヌで「パルムドッグ賞」(!)を受賞したテリア犬のアギー、サイレントを引き立てる音楽で作曲賞にノミネートされたルドヴィック・ブールスの仕事にも注目。見た後、確実に幸福な気分になれる映画だ。

映画『アーティスト』
監督・脚本:ミシェル・アザナヴィシウス 出演:ジャン・デュジャルダン/バレニス・ベジョ/他
配給:ギャガGAGA★ (2011年 フランス)
◎4/7(土)シネスイッチ銀座 、新宿ピカデリー他全国順次公開
http://artist.gaga.ne.jp/

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