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『太陽にほえろ! 1983 DVD-BOX』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/03/21   18:48
ソース
intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)
テキスト
text : 本村好弘

TVドラマもまた時代を映す鏡である。

昭和47年にスタートしたTVドラマシリーズを順次DVD-BOX化している今回が昭和58年放映のものを特典満載にて発売と言う訳だ。日本の刑事ドラマの代名詞と言われる本作は、新宿区にある架空の警察署、七曲署管内で派生する凶悪事件を追う刑事達の群像劇である。オープニングに新宿の高層ビル群の中を疾走する歴代のアイドル刑事達にはそれぞれの時代のファンたちが心躍らされたであろう。物語の節々で登場する〈新宿・弥生町で殺人事件発生〉の台詞は子供達の刑事ごっこでは決まりフレーズにもなっていた。BOX化されてゆくシリーズの映像を年代別で追ってゆけば設定の舞台である新宿の移り変わりが見えて結構面白い。大都会・新宿という街の呼吸が、このシリーズから大きく垣間見られる。そしてその都会の中に潜む人間の喜怒哀楽、ことさら人生をドロップアウトせざるを得なかった人間達と、それを正面から真摯に向き合う刑事達の姿が、この刑事ドラマをロングセラーへと導く事になったのだろう。シリーズ当初は、浅間山荘事件やベトナム景気が交差する時代であった為、デモ・蒸発・富の格差等、当時を象徴する事象が少なからず作品テーマに影響を及ぼしている。また登場する刑事も、いわゆる戦後派を代表する者や当時のヒッピー風俗をイメージする出で立ちなのも興味深かった。シリーズ開始より11年、今回収録の作品もまた、やはりその時代の世相が作品に大きく投影されている様だ。バブル景気を前に、日本の物質的な豊かさへの懐疑が物語に見え隠れする場面もある。流行歌は時代を映し出す鏡と言うが、毎週毎週凌ぎを削るTVドラマの世界もまた、当時の社会的な問題や関心事を映し出す鏡となっているのではないだろうか。ただし、時代は、好景気に国民全体が浮き足立っているご時世。当時、ミワカントリオと呼ばれた、三田村邦彦・渡辺徹・神田正輝の起用(世良公則加入後はカワセミカルテットに)で、この作品も、刑事ドラマの泥臭さを払拭し、都会的なアクションを取り入れたスタイリッシュなドラマへと移行しつつあった様にもとれる。昭和58年と言えば、ファミコンが発売、TDLが開園、カフェバーが隆盛を極め、愛人バンクが社会問題になり始めた年だ。BOX価格が、ラッキー7が並ぶ七万七千七百七十七円(税込み)なのは、右肩上がりの時代に青春期を過ごした人々へのウイットとすれば、これは買いなのかも知れない。