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BO NINGENのサイケデリック見世物小屋(第9回)

連載
皿えもん
公開
2012/03/21   16:30
更新
2012/03/21   16:30
テキスト
文/Taingen(BO NINGEN)


アーティストが各テーマに沿ったお皿(CD)を紹介する連載! 海外では日本の音楽がどう捉えられているのかを、イギリス在住のBO NINGENの視点でお届けします。今月の担当は、ベース/ヴォーカルのTaigen!!



BO NINGENのサイケデリック見世物小屋(第9回)



[ 今月の一枚 ] GOTH-TRAD 『MAD RAVER'S DANCE FLOOR』 POPGROUP



お久しぶりです。BO NINGENのベース/ヴォーカルのTaigenです。
初回に不失者、2周目にももクロ……という大いなるギャップの後の3周目はどうするか本当に悩んだのですが、低音系で攻めたいと思います。

実は、BO NINGENの初期の曲たちはすべてベースレスでした。
結成当初は〈ヴォーカルだけやろう〉と思っていたぐらいなので、
ベースを弾きはじめてからもなるべくシンプルに。
当時ノイズや音響系にはまっていたこともあり、
音楽を始めるきっかけとなったベースという楽器――〈低音という概念〉から少し距離を置きたかったんだと思います。

そして、そんな自分がベース/低音にふたたび目覚めるきっかけになったのが〈低音音楽〉。
UKではバンドのリズム隊が壊滅的な代わりに、
クラブ・シーンでDJが流す〈低音音学〉はグルーヴ満点なのでありました。

そんなUK低音クラブ・ミュージック・シーンに頻繁に呼ばれ、
UKの名門ダブステップ・レーベル、ディープ・メディからもリリースを重ねる日本人アーティストが、
今回紹介するGOTH-TRADです。
今年の1月11日にリリースされたばかりの新譜『New Epoch』も素晴らしい名盤なのですが、
ここはあえて2005年の『MAD RAVER'S DANCE FLOOR』を紹介します。

いまでこそダブステップというと流行の音楽になりチャラいイメージさえ付きはじめていますが、
僕個人がおもしろいと思う要素の一つに、
プロデューサーの音楽的ルーツが曲に滲み出やすいという点があります。

実際、南ロンドンで局地的に流行しはじめた時期にダブステップに方向転換していったプロデューサー/DJは、
自分のそれまでのルーツを上手くダブステップという音楽に落とし込めていた例が多いように見受けられます。
(逆に、いまで言うブロステップにはそれをあまり感じません)

ちょうどその時期にリリースされたこの作品も、
GOTH-TRADさんのルーツであるノイズやドラムンベース、2ステップなどが上手い具合に混ざり合い、
ストイックに、かつフロアに向けて作られています。
環境/リスナーによって曲の解釈が大きく変わるという要素は、
普通クラブ・ミュージックにとってマイナスだと思うのですが、
この作品と新作の『New Epoch』、
そしてデジタル・ミスティックズ『Return II Space LP』などに共通するのは、
部屋で聴いてもクラブとはまた違う楽しみ方ができる、というポイントです。

ダブステップや低音系と言われる音楽は数あれど、僕自身あまりクラブゴーアーではないので、
UKのダブステップにそこはかとなく漂うマッチョな感じの音が苦手に感じる時があるのですが、
日本人、そしてノイズ・シーンで活躍していたGOTH-TRADさんの音が個人的にいちばんしっくりきます。

このアルバムの代表曲で、東京・渋谷のclub aiaで毎月開催されているGOTH-TRADさん主催のパーティー名の由来でもある“Back to Chill”はぜひ聴いてみてください。
そして実際にclub Asiaでの〈Back to Chill〉にも足を運んでみてください。
ロンドンのクラブと比べても遜色がない、
身体の腰まで降りてくる低音は日本ではあそこだけでしか味わえないと思います。
ぜひ、自分の身体で体験してみて下さい。低音の価値観が変わると思います。
クラブのイメージがチャラい/怖いでしかなかった昔の僕のような方にこそ、
ぜひおすすめしたい音源/体験です。


▼文中に登場した作品


PROFILE/BO NINGEN



Taigen(ヴォーカル/ベース)、Kohhei(ギター/エコー/ファズ)、Yuki(ギター/エコー/ファズ)、Mon-chan(ドラムス/ポールダンス)から成る、ロンドン在住の日本人男性4人組バンド。2009年、UKのストールンから限定EP『Koroshitai Kimochi』でデビュー。最新EP『Henkan/Jinsei Ichido Kiri』(Stolen/Knew Noise)が好評リリース中の彼ら、現在はふたたびロンドンにて次なるステップを画策中? そんな彼らのスケジュールについては、こちらのサイトをご覧ください。

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