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『立川談志公式追悼盤 家元自薦ベスト』『笑点音頭〈タワーレコード限定〉』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/03/26   19:21
ソース
intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)
テキスト
text : 鈴木智彦(タワーレコード本社)

人間、立川談志を深く慕っていた人々の想いがこもっているのだ!

幼い時分の僕が最初にテレビで「これが落語家か!」と、その存在を強烈に意識したのは先代の林家三平。それが落語の常識に適わない支離滅裂で破壊的な芸である事を僕が知るのは随分先の事だ。その先代三平を「兄さん」と慕い続けた若き時代の立川談志の記憶は実はあまりない。彼もまた三平同様、新しく(ラジオに替わり)家庭のお茶の間の主役となったテレビという放送メディアを通してその存在を世間に広く知らしめた人物であるが、彼が企画し実現した寄席の空気感や芸の一部をテレビ向けにアレンジし直し開始されたテレビ番組『笑点』は、小学生にはちとハードルが高かったのだろう。残念な事にその『笑点』の73年8月26日以前の放送分映像はアーカイヴとして残されていないので、談志が司会者を務めた放送回(第1回~170回、1969年5月15日~69年11月2日期間)は、放送40周年記念で発売された『笑点大博覧会 DVD-BOX』(2005年発売)にも未収録。よって若き時代の『笑点』における談志の才気煥発ぶりを確認出来る音像記録は実はこれしかない! というのが、今回ここにご紹介させていただく「笑点音頭」である。これまで何度か企画盤アルバムなどへの収録でCD化自体はされてはいるが、シングル形態での再発は今回が初。「歌詞カード」、「振付」(写真入り!)付きでの復刻が実現した。楽曲の内容は、立川談志作詞/歌、宮崎尚志作曲(「コカ・コーラ」のCMソングなどでも有名)、コーラスに初代・笑点の大喜利メンバー(5代目三遊亭圓楽/桂歌丸/柳亭小痴楽/三遊亭金遊/林家こん平)という内容。談志の少し斜に構えたきっぷのいい歌声は江戸っ子の意気地や空元気みたいなものを感じさせてくれる。音楽作品であっても十分に落語的なこの作品から、若き時代の談志の芸の片鱗を是非感じとって頂けるのではなかろうか。

そして、もうひとつの作品。昨年12月25日に談志事務所(談志役場)公認追悼盤として緊急発売された『家元自薦ベスト』(キントト・レコード)。喉の病気を患って以降は噺家にとって命綱の〈声〉そのものと格闘(苦闘、と言っていい)し続けた談志自らが「いい出来だったのでCDにしたい」と語っていたという、近年に高座で披露した滑稽噺2話を収録。言語統制!? が行き届いた現代のテレビでは放送出来ないような毒舌ぶりも盛り込まれたこの2話からは、声が思うように出ないう事に対するもどかしい思いと闘いながらも、それでも落語家としての活動に執念を燃やし続けた談志の気持ちの強さや、落語に対する深い愛が、きっと伝わってくるはずである。発売後タワーレコードにおいても落語作品としては異例の売行きを記録。自我とスタイルを貫き通しながら、大きな愛で落語世界を包み込もうとしていた(ように思える)人間、立川談志を深く慕っていた人間がたくさんいたという事のひとつの現れだと僕は受け止めている。