こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

NEWS & COLUMN ニュース/記事

BO NINGENのサイケデリック見世物小屋(第10回)

連載
皿えもん
公開
2012/04/20   15:00
更新
2012/04/20   15:00
テキスト
文/Yuki(BO NINGEN)


アーティストが各テーマに沿ったお皿(CD)を紹介する連載! 海外では日本の音楽がどう捉えられているのかを、イギリス在住のBO NINGENの視点でお届けします。今月の担当は、ギターのYuki!!



BO NINGENのサイケデリック見せ物小屋



[ 今月の一枚 ]LSD MARCH 『UNDER MILK WOOD』 Important



生きて行く事は雪だよ 降りしきる雪だよ

友川かずき氏のとある歌の一節を聴いていて、
春眠を貪りながら真冬のことを思い出して、少し。

僕はもともと道下慎介氏が作る音楽のファンで、
なかでも“からっぽのルージュ”に代表されるような異形のラヴソングの数々に、
毎晩嗜めてもいないお酒と共にお世話になっていたわけだけれど、
現段階でいちばん新しい、
このアルバムを発売日にアメリカから取り寄せ
(ロンドンにおいても、その時分はまさに
雪の積りつもる冷たい冬の日だったと記憶しております)、
1曲目の幽玄極まるイントロに恍惚としながら、
2曲目の“白い世界で”が流れはじめた時、
自分がそれまで抱いていたLSD Marchというバンドの認識が、
非常に硬質な音を立てながら変わっていったのを覚えている。
甘美で、湿った香炉から沸き立つような艶っぽい匂いはそのままに。

前々回のディスクジョックを担当したコウヘイ君が指摘したように、
欧米における〈サイケデリック〉というタームの定義
(ドラッグ至上主義とも言い換えられるような)を見事に逸脱した、
文字通りびしょ濡れの名盤である。

祭祀のような歓喜や享楽はそこにはなく、
漂う雰囲気は〈禁欲的な厳粛さ〉そのものであり、
アルバム全体がさながら僧侶の経文のようにも聴こえる。
ヨーロッパでゴッホが、
日本で明恵が、
自身の耳を削ぎ落としたように、
激情の果てに宗教を芸術に昇華しようとする発心(フォーク・ミュージック)が遥か遠くから、
またスピーカーのなかから静かに、轟々と燃えているのが聴いて取れる。

さらに、人類が初めて墓標を立てた時に〈死の概念〉が生まれ、
明日を想定していくようになっていったように、
道下氏の歌声と、
時に円環を沿うように滑らかに奏でられるエレクトリック・ギター、
時に酒を一滴もやらない人間のあたかも酩酊したフットステップのようなパーカッションを伴って、
垂れ込める無常と死のイメージがこのアルバムでは彩られる。
楽器隊の前者はあくまでダイナミックで、
後者はあくまでスタティックの対照。
そして、ラスト・トラックで訪れる破顔の大爆発(これすごく良い)。
喪失への恐怖か。脱・現実への憧れなのか。

嵐のあと、びしょ濡れの君の歌を聴いて僕は悪魔になった。

僕は悪の仮面を被らねばならない。
彼は悪魔の一群に属しており、悪徳は優れた愛の物語を作り出す。
どんなロマン的な美徳よりも。
けれども叫ばれるのは愛であり、汚辱ではないのだ。

然して僕は『UNDER MILK WOOD』に夢中になっていったのでした。
新しいレコードを制作中とのことで、いちファンとして、非常に楽しみです。


▼関連盤を紹介


PROFILE/BO NINGEN



Taigen(ヴォーカル/ベース)、Kohhei(ギター/エコー/ファズ)、Yuki(ギター/エコー/ファズ)、Mon-chan(ドラムス/ポールダンス)から成る、ロンドン在住の日本人男性4人組バンド。2009年、UKのストールンから限定EP『Koroshitai Kimochi』でデビュー。最新EP『Henkan/Jinsei Ichido Kiri』(Stolen/Knew Noise)が好評リリース中の彼ら、現在はふたたびロンドンにて次なるステップを画策中? そんな彼らのスケジュールについては、こちらのサイトをご覧ください。

RELATED POSTS関連記事