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『くまのプーさん』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/05/01   10:34
ソース
intoxicate vol.96(2012年4月20日発行号)
テキスト
text: 吉川明利(タワーレコード本社)

この笑い!子供だけではもったいない!


どちらかというと映像作品ではなく、ぬいぐるみのキャラクターとして有名なプーさんであるが、このたびなんと35年ぶりに新作が『ウォルト・ディズニー生 誕110年記念作品』として製作された。CG&3Dアニメ全盛の時代にあって、この作品はその逆を行く、穏やかな手書きアニメーション作品であ る。それはプーさんの絵本と、ぬいぐるみの世界を表現するために必要なツールと言えよう。

しかし、作品を観てみて感心したのは、素晴らしきオールド・ファッション・スタイルの〈手書き〉という技術的な面だけではなく、〈ミュージカル・コメ ディ〉としての魅力であった。物語の中盤で、クリストファー・ロビンが書置きを残していなくなる。そこには「でかける。いそがしい。すぐもどる」と書いて あった。ふくろうのオウルが〈スグモドル〉という名の怪物にロビンが拐われたと森の仲間が勘違いし、プーさんと森の仲間が捜索活動を行う件が最高に笑える のである。

実はプーさんの映画で、笑いの部分を引き受けるのは、ティガーとイーヨーといったサブ・キャラの面々なのだ。歩みの鈍いイーヨーを一緒の捜索ペースに巻き 込もうとするティガー、その二人が繰り広げるギャグが、最高のスラップスティックコメディ&ミュージカルとなっている。《2人なら最高》というナンバーを バックに繰り広げられる、されるがままのイーヨーとパワフルなティガーのコンビ芸は、まるで極上の漫才のボケとツッコミを見ているようだった。

英語版の主題歌を歌っているのが、あの『500日のサマー』のゾーイ・ディシャネルだ。歌手活動も精力的に行っているようだ。彼女の声は英語版でしか聴け ないが、今回は日本語吹き替え版で見て、それが良かった良かったのだ。謎の怪物を〈スグモドル〉とした訳のうまさもあるが、見事な違和感のない吹き替え で、ここ最近の洋画の3D作品の吹き替え版の出来の悪さにウンザリしていたので、なおさらディズニースタジオの上手さに感心してしまったのだった。

©Disney