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映画『ベイビーズ~いのちのちから~』

カテゴリ
o-cha-no-ma CINEMA
公開
2012/05/07   12:09
ソース
intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)
テキスト
text:落合有紀

人間の本能と生きる力の強さ、すごすぎる!

2010年5月にアメリカで公開され、初登場トップ10入りしたドキュメンタリー『ベイビーズ〜いのちのちから〜』が、5月5日に日本で公開される。

2009年4月に誕生した赤ちゃん4人の成長をひたすら追う。ナレーションも字幕ない英断に驚いた。ただ見る、ただ聞く、そして、考える。観客は、生まれたての赤ちゃんと同じ感覚に放り込まれるのだ。普段見ているドキュメンタリーが、いかに作り手の大声にまみれているのかわかるだろう。

さて、登場する4人の赤ちゃんを紹介したい。ナミビアの少数民族、ヒンバ族の女の子、ポニジャオ。東京都心で暮らす夫婦の長女、マリ。モンゴルの遊牧民家庭に産まれた次男のバヤルジャルガル。アメリカ・オークランドに住むインテリ夫婦の長女、ハティだ。どの子も元気で好奇心いっぱいで、家族が愛情を込めて子育てしている。
目を引くのは、ナミビアとモンゴルのお国柄溢れる育児事情だ。どちらも家の周囲は自然公園状態、ミニ動物園状態である。子供たちは自然の中で気ままに遊んでいる。ナミビアの家族は12人の大家族。10人も出産した肝っ玉母さんの育児は興味深く、衝撃的だ。モンゴルのお母さんが貴重な水の代わりに、ある物を使って洗顔する光景にも目を見張った。日本人には想像もつかない世界である。

自然派と都会派の子育てを比較して、私たちが反省すべき点もたくさん見えた。けれど、いちばん心に残ったのは、人間はどんな環境でも、同じような過程を経て成長する、ということ。人間の本能と生きる力の強さ、すごすぎる。文明批判なんて脇に置いて、子供の生きる力に注目したい。

ドキュメンタリー離れした落ち着いた映像と音楽もいい。出演者には時間をかけてカメラ慣れしてもらったのだろう。あとは、カメラを三脚で固定し、カメラマンの気配を消して、じっと待つ。何が起きても焦らず騒がず、手を出さず…。根気勝負の撮影方法が結実した。子育て経験者には、よくぞ撮った!と驚くような一瞬の光景がいくつも収められている。自然の風景もすばらしく、空気の匂いすら漂うような透明感のある映像には、旅情がそそられた。

ナレーション以上に雄弁なのは、ブリュノ・クレの音楽だ。『オーシャンズ』『WATARIDORI』『ミクロコスモス』といった傑作ドキュメンタリーでも音楽を担当したクレ。ポロロンと響くパーカッション、柔らかな歌声、流麗なヴァイオリン。会話や生活音をかき消さない静かさがいい。

子育てで悩みを抱えている人は、心が軽くなるだろうし、子供を持つことに漠然と不安を感じる人は、安心感を得るだろう。子育てに興味のない人たちにも、ぜひ見てほしい。自分も子供時代に通った道だと思うと、意外な発見や気づきがあるはずだ。この映画のいちばんの効用は、自分の生命力を大切にしたくなることではないだろうか。

映画『ベイビーズ~いのちのちから~』
監督:トマス・バルメス 作曲:ブリュノ・クレ
出演:子供たち:ポニジャオ(ナミビア)マリ(日本)ハティ(アメリカ)バヤルジャルガル(モンゴル)両親:アレレルアとビンデレ(ナミビア)セイコとフミト(日本)スージーとフレイザー(アメリカ)マンダフとプレフ(モンゴル)
配給:エスパース・サロウ(2010年 フランス)
◎5/5(土)こどもの日、新宿ピカデリーほか全国ロードショー!
http://www.babies-movie.net

©2010 Chez Wam/Thomas Balmes