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Brad Mehldau Trio『Ode』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2012/05/11   15:40
ソース
intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)
テキスト
text:相原穣

トリオの系譜としての一到達点

ソプラノ歌手ルネ・フレミングとの共演による『ラヴ・サブライム』、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスらの曲をフィーチャーした『Modern Music』と、ブラッド・メルドーは、どのジャズ・ピアニストよりも果敢に他ジャンルとのコラボレーションを実践してきた。ジョン・ブライオンのプロデュースによる2作、すなわち、ロックが青白い光をスパークさせた『ラーゴ』や、管弦楽サウンドの広がる近年の『ハイウェイ・ライダー』は、メルドーのピアノを雄大な音楽風景へと誘った。

一方で、2002年録音の『  エニシング・ゴーズ』や『ハウス・オン・ヒル』、05年の『デイ・イズ・ダン』、06年ヴィレッジ・ヴァンガードでの『Live』というように、ジャズをフレームとしたトリオの系譜があり、今作の『Ode』(大半が2008年録音)はそれに連なる。「頌歌」を意味するこのアルバムのコンセプトは、各曲が(実在・架空を問わず)誰かに捧げられていること。亡き名サックス奏者のマイケル・ブレッカーや今をときめくギタリストのカート・ローゼンウィンケル、映画『イージー・ライダー』でジャック・ニコルソンが演じたアル中弁護士のジョージ・ハンソン、というように。しかし、もっと本質的な特徴は、例えば、他アーティストのカヴァーを中心とした『デイ・イズ・ダン』が、リリカルな節回しを印象として残すのに対し、全曲自作による『Ode』では、オスティナートを駆使するメルドーのピアニズムがこれまで以上に構築性を触発していることだろう。他ジャンルとの交流の影響か、展開は総じて見通しよく、さらには、どの曲もメンバーを念頭に書かれたとあって、ラリー・グレナディアのベースやジェフ・バラードのドラムスも、一層緊密で、いつになく雄弁。メルドーにとって、インプロヴィゼーションの推進力とは、天啓による忘我の境地や意表を突く快感ではなく、音の構築への明晰な意志であるとすれば、ここにはトリオとしてのその一つの到達点がさりげなくも示されている。

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