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BO NINGENのサイケデリック見世物小屋(第11回)

連載
皿えもん
公開
2012/05/21   15:45
更新
2012/05/21   15:45
テキスト
文/Mon-chan(BO NINGEN)


アーティストが各テーマに沿ったお皿(CD)を紹介する連載! 海外では日本の音楽がどう捉えられているのかを、イギリス在住のBO NINGENの視点でお届けします。今月の担当は、ドラムスのMon-chan!!



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あぶらだこ 『あぶらだこ(月盤)』 ミディ



こんにちは、ドラムスのMon-chanです。

人生には自分の理解の範疇を超えたものとの出会いで
価値観を変えられることが稀にあると思います。
自分のなかで思いつくのは
俗にノイズ・ミュージックで括られる音楽との出会い、
叩かれたり縛られたりしながらも最後は笑顔で去って行くお爺さんとの出会い、
そしてあぶらだこです。

初めて聴いた当時、
異質、奇妙、難解といった感想を多くの人が持つように自分もそうでしたが
いまは新しいアルバムを聴くごとに漫画「ギャラクシー銀座」を読み切った時のような
心地良い困惑と陶酔感に近いものを感じています。

初期の音源も素晴らしいのですが、
今回選んだのは通称〈月盤〉と呼ばれる2000年の作品。
(彼らのアルバム・タイトルはすべて『あぶらだこ』です)
近年の録音ものになると、
日本的な心性としての〈間〉とも言うべきものを採り入れた楽曲や、
篳篥が入っていたりと雅楽などの伝統音楽の要素も相まって、
さらに凄まじいことになっています。
なのにポップでユーモラスに仕上げてしまう希有なバンド。

ちなみにあぶらだこのアートワークも手掛ける滲有無の内田静男氏と
ヴォーカルの長谷川裕倫氏のユニット・長谷川静男では、
篳篥などの民族楽器や〈間〉といった要素がさらに昇華された
ドープなドローンの荘厳な音像世界がつくられていて、
ロンドンのSecond LayerというRecord Shopでも高い評価を受けています。
お薦めはファーストの『Gene Packs』。

話は戻りますが、

内臓から絞り出されるように発せられる圧倒的な声と
それに呼応する強靭なリズム隊、
そのすべてを包み込んで別世界へ誘うかのようなギター、
便宜上、担当楽器は存在していますが、全員で〈歌っている〉――そう思えるような音。
時には絶叫し、時にはふざけながら自由な音律で。
まるで酔いどれた尾崎放哉の幻灯パレードです(!)。

全員から紡ぎ出される〈間〉から生まれ出る波。
その細分化された断片は、退廃的に繋ぎ合わされた現代の混沌とした社会への警告、
類い稀なるシンクロナイズがなされた演奏の、自己顕示のための手法。

と、いうわけではもちろんなく、

自分としては、昔よく遊んだ空き地に忘れてきた記憶や
ひどく恥ずかしい思いをして家に帰ってジタバタした時の感情だったり、
急な雨の後に漂うアスファルトの匂いや
どうしようもない日に見た夕日の手触りだったり、
日常のなかに息づく大切な〈何か〉を想起させてくれるもので、その集積なのです。
大袈裟かもしれませんが〈生〉への賛辞、激励のように聴こえます(大袈裟です:笑)。

詩の内容は複雑で自由な音律のため理解は困難を極めます。
なので、ある程度詩を読んで音の響きを楽しんだ後は〈見る〉ようにしています。
友人が「蝉のお腹は漢字の鬱に似ている」と言っていましたが、まさにその要領で。
漢字にも意味合い以外の個性が見えてきて、何かの絵や記号のようになるような。
(漢字に馴染みのない国の方々の見方に近いですね。漢字のタトゥーを入れる感覚。
一度〈宿題〉と入れたイカツいヨーロッパの青年に会いましたが、何も言えませんでした)

要所々々で入ってくるカタカナも効いていて、音を含んだ〈何か〉に思えてきます。
もしかしたら長谷川氏は文字と音に対しての共感覚でも持っているのではとさえ思える。
文字に音を聴く、そんな感覚があったら素敵ですね。で
も、私生活は大変そうです。小説とか読めなくなりますね。
太宰治を読んでいて、グリーン・デイのような音が聴こえてたら読破は難しいでしょう(笑)。
話が逸れました、トカトントン。

やはり言葉(声)も音。
BO NINGENはイギリスをベースに日本語で歌っているわけですが、
その響き、絡み方の妙も魅力の一つになっているのだと思います。
日本以外の国では、まだ英語をほぼ音としか認識せずに洋楽を聴いていた時のような
あの感覚で声を音として聴いてくれている人がいるわけですが、
ずっと右脳的で感情に作用しているんだろうなと。
その感覚は大事だと、あぶらだこを聴いていて思います。

これからもずっと聴き続けていきたいと思わせてくれるバンド。
今後の展開も気になりますし。
お薦めは“索漠な信号”“夕映”“冬枯れ花火”。

またシングルですが、“翌日”も素晴らしい作品。
精神を病んだ時の集中治療室的な位置付けで、
自分を前向きに明日へ繋いでくれたりします。

24分近くある長尺の1曲のみですが、そこには濃密なカタルシスの渦があり、
ある意味ワクチン的に処方しています。
部屋を暗くして、できるだけ大きい音で聴くのがお薦め。
何かが壊れて何かが芽生えます、きっと。



▼文中に登場した作品を紹介。

PROFILE/BO NINGEN



Taigen(ヴォーカル/ベース)、Kohhei(ギター/エコー/ファズ)、Yuki(ギター/エコー/ファズ)、Mon-chan(ドラムス/ポールダンス)から成る、ロンドン在住の日本人男性4人組バンド。2009年、UKのストールンから限定EP『Koroshitai Kimochi』でデビュー。最新EP『Henkan/Jinsei Ichido Kiri』(Stolen/Knew Noise)が好評リリース中の彼ら、現在はホラーズと共にUKツアー中! そんな彼らのスケジュールについては、こちらのサイトをご覧ください。

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