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祝100周年 パラマウントの歴史

カテゴリ
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公開
2012/05/21   18:23
ソース
intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)
テキスト
text :前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)

パラマウントの魅力は〈スター〉にあり

1912年、アドルフ・ズーカーが設立したフェイマス・プレイヤーズ・フィルム・カンパニーがフランス映画『Les Amours de la reine Élisabeth(エリザベス女王の恋)』を米国内で配給し、それが現在のパラマウントの母体となった。フェイマス・プレイヤーズとは「有名俳優」の意味だが、フランス映画の中でエリザベス1世を演じていたのは、当代きっての大女優サラ・ベルナール。つまりパラマウントとは、その産声の第一声から「映画の魅力はスターにあり」と主張し続けてきた会社なのである。雄大な山の頂をあしらった、有名なパラマウントのロゴマークをご覧いただきたい。山のまわりに 22個の星が輝いているが、この星はパラマウントが最初に契約した専属スター22人を表わしている。それから100年。映画会社とスターの関係はずいぶんと変化したが、パラマウントのロゴマークが基本的なデザインを変えていないのは、「パラマウントの魅力は〈スター〉にあり」という信念を貫き、またそこに絶対的な信頼を置いていることの証だと言える。

そんなパラマウントのスターの中から、男女ひとりずつ代表例を挙げてみよう。まず女優ではオードリー・ヘップバーン。妖精のような魅力に包まれた『ローマの休日』『麗しのサブリナ』『戦争と平和』から、高級コールガールにふさわしい大人の魅力を漂わせた『ティファニーで朝食を』までのヘップバーンは、スターの魅力が映画というメディアを越え、広く文化やライフスタイルまで絶大な影響を与えた20世紀最大の成功例だろう。そして、男性ではトム・クルーズ。『トップガン』で1986年全米興行収入No.1と1987年洋画配給収入No.1を記録し、それから四半世紀を経た『ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル』でも正月映画の稼ぎ頭となっているのだから、その持続力には本当に恐れ入る。パラマウントの中に製作プロダクションを設立したトムこそは、ある意味で最もパラマウント的なスターなのかもしれない。『~ゴースト・プロトコル』の公開に併せ、パラマウントが100周年のロゴデザイン(マイケル・ジアッキーノがファンファーレを書き下ろした)をお披露目したのは、それゆえ、きわめて象徴的な出来事だったと言える。

〈スター〉を輝かせる監督たち

ハリウッドのメジャー映画会社が独自のカラー(作風)を持っていた時代、よくパラマウントの映画は「都会的」と評されたりした。スターの魅力を何よりも重視した、パラマウントならではと言えるだろう。実際、パラマウントはスターを輝かせるのが得意な監督にも恵まれていた。『地上最大のショウ』『十戒』でチャールトン・ヘストンをスターにしたセシル・B・デミル。『レディ・イヴ』でヘンリー・フォンダに喜劇役者の才能を開花させたプレストン・スタージェス。『サンセット大通り』で往年の名女優グロリア・スワンソンをカムバックさせたビリー・ワイルダー……。その『サンセット大通り』の撮影現場を見学したのがきっかけでスター俳優となったロバート・エヴァンスが、34歳の若さでパラマウントのトップとなったというのも、いかにもパラマウントならではと言うべきだ。エヴァンスは、ロマン・ポランスキーに『ローズマリーの赤ちゃん』を撮らせ、フランシス・F・コッポラに『ゴッドファーザー』を監督させることで、ニューシネマ台頭以降のハリウッドの低迷期を見事に乗り切った。ニューシネマ時代のスターの代表格であるウォーレン・ビーティに『天国から来たチャンピオン』と『レッズ』のメガホンを委ねたエヴァンスの慧眼としたたかさは、並大抵のものではない。

パラマウントが生んだ歌の〈スター〉

パラマウントが『ある愛の詩』を製作した際、ロバート・エヴァンスの鶴の一声で作曲家がフランシス・レイに決まり、その結果、アカデミー作曲賞を受賞したレイの主題曲が世界中で大ヒットしたのは有名な話だ。そもそも、パラマウントの映画は主題歌のセンスがいい。ビング・クロスビーの『ホワイト・クリスマス』から名曲《ホワイト・クリスマス》が、エルヴィス・プレスリーの『ブルーハワイ』から彼の代表作《好きにならずにいられない》が生まれている事実を挙げてみるだけでも、ポップス史におけるパラマウントの映画の影響力の大きさがわかろうというものだ。そして1970年代後半以降、パラマウントは広告業界出身のジェリー・ブラッカイマーをプロデューサーに迎えたこともあり、MTV時代の流れに見事に乗りながら多くの歌の〈スター〉も生み出した。『サタデー・ナイト・フィーバー』のビージーズ《ステイン・アライブ》。『アメリカン・ジゴロ』のブロンディ《コール・ミー》。『愛と青春の旅立ち』のジョー・コッカー&ジェニファー・ジョーンズの同名主題歌。『フラッシュダンス』のアイリーン・キャラ《ホワット・ア・フィーリング》。『ビバリーヒルズ・コップ』のグレン・フライ《ヒート・イズ・オン》。『トップガン』のベルリン《愛は吐息のように》。『ゴースト/ニューヨークの幻』のライチャス・ブラザーズ《アンチェインド・メロディ》……。こうして映画タイトルと曲名を並べてみるだけでも、すぐにその場面と音楽が頭に浮かんできてしまうのだから、本当に恐れ入る。

映画の中で〈スター〉が輝き、その光をさらにきらびやかに盛り立てる監督と音楽が存在する。おそらくこれこそが、パラマウント100年の歴史の原動力であり、その最大の魅力なのだ。