アーティストが各テーマに沿ったお皿(CD)を紹介する連載! 海外では日本の音楽がどう捉えられているのかを、イギリス在住のBO NINGENの視点でお届けします。最終回の担当は、ギターのKohhei!!
下山 『かつて うた といわれたそれ』 十三月の甲虫
すべての感情へのサイケデリック断章。
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突き抜けて、サイケデリックは向こう側。その向こう側はこちら側か?
また突き抜けて飛び越えてその向こう側ループ。戻ってきたこっちはもう違う。
現実が姿を変えたのか、君が、僕がもう違うのか。ループする道筋は螺旋。
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今回は、僕らと同世代にして真打ち、下山(Gezan)。
最初にグッときたのが名前だった。覚えやすく語感が良くて詩的。
山を下りるツァラトゥストラ。UNTERGEHEN。
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そして、彼らの最新作『かつてうたといわれたそれ』。
僕がその壮絶なライヴから漠然と想像していたモノを軽々と突き放し、
ゴダール映画のような突飛な編集/うた/ノイジーなリフがあっちからこっちへ
そして向こう側へブレイク音スルーし続ける、すでに歴史的傑作。
(聴けば聴くほどいつの時代の音楽かわからないし、
現在に基点をおいて過去と未来を見るってやり方が通じない。
どこに基点をおいたらいいかわからないので、いわば架空の歴史の、古典)
前衛だとか無茶だとかいう言説も目にしますが、
編集感もあまりに自然でむしろスタンダードな感じがする。
彼らのコラージュ感にツッ込む前にいわゆるポスト・ロック
(語義矛盾。全然〈ポスト〉じゃないバンドがマジョリティーなので)を
標榜する人たちの無意味な変拍子やストップ/スタートのスポーツマンシップに
ツッ込んでほしいですね。
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全周波数にファズをかけたような粒子の粗い音像、
ライヴのえげつない爆音と過激なパフォーマンスや言動から、
ボアダムスや関西ゼロ世代と呼ばれたバンドを引き合いに出し、
彼ら下山をその流れに位置付けようとするレヴューなど目にしますが、
というか気持ちもわかりますが、それで終わり。ではちょっと彼らをなめてると思う。
むしろ、全編に漲る繊細と言ってもいいほどの歌心と純粋な青臭い気高さ、
プライド革命志向からは七尾旅人やフィッシュマンズとの共通項すら読み取れる
(最終曲しか聴いてないわけではないです、もちろん。
声質によるものなのか、挟み込まれる朗読も歌に聴こえる)。
彼らのライヴ・パフォーマンスについては破壊的、と見る向きもあるけど、
デスな感じはしなくて、オーディエンスを強引に連れて行こうとするような、
ある意味おせっかいな、溢れる音楽への愛にみんなを巻き込もうとするような、
そんなある意味で陽性のヴァイブがある。
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一応、海外から見た日本の、って言う趣旨なので、そういう文脈で語ろうと思い、
そして(夜中なので)ずっとヘッドフォンで聴いていた下山がちょっと耳に痛くなってきたので
(爆音でかけていたので)、
違うもんをかけようとクリックした先がサイキック・パラマウント(あまりに出来すぎですが偶然)。
両方持ってる人はいますぐ聴き比べ、両方持ってない人はいますぐレコード屋へ。
といった感じの重要盤ですが、改めて比べると似てるのは音の手触りと編集感くらいかな
(また耳が痛くなったので次にクリックしたのがHIGH RISE。偶然。でもしんどいのでテニスコーツへ)。
下山に関しては海外(僕は例によってヨーロッパ・オンリーですが。
ただこのケースはアメリカも同じかと)に出た途端スターになるのは目に見えているので
(いままでの日本アンダーグラウンドの捉えられ方の歴史を知っていればあきらかすぎる)、
ここはあえて、慎重に計画/戦略/陰謀を練ってほしいものと思います。
海外における日本の音楽の捉えられ方、
それは現在ジュリアン・コープ著「Japrock Sampler」によるところも大きいと思われるのですが、
それを次のフェイズへと持っていける強度を十二分に備えたこの傑作を、
まずは僕たち日本人が全世界に先んじて聴ける幸運を楽しみましょう。
PROFILE/BO NINGEN
Taigen(ヴォーカル/ベース)、Kohhei(ギター/エコー/ファズ)、Yuki(ギター/エコー/ファズ)、Mon-chan(ドラムス/ポールダンス)から成る、ロンドン在住の日本人男性4人組バンド。2009年、UKのストールンから限定EP『Koroshitai Kimochi』でデビュー。最新EP『Henkan/Jinsei Ichido Kiri』(Stolen/Knew Noise)が好評リリース中の彼ら、7月からは今年2度目となるジャパン・ツアーが決定! 今回紹介した下山とも、東京・高円寺UFO CLUBで開催される初日の公演で共演します。また、近々〈皿えもん〉を飛び出して装いを新たにしたBO NINGENの連載も開始予定! そんな4人の今後のスケジュールについては、オフィシャルサイトをご覧ください。